第22話 タガタメ

「とりあえず明日はこの島に身を隠すわよ。」

電話をしまいながらなぎささんは言った。 

「その本をあなたが読めるのは一旦おいておくわ。 調査は明日。

 ここにこれ以上長居するのはよくないし、今日はここまで。」

僕たちは城をでて、ホテルに戻って眠った。



―――― 朝 ――――


「おはよ、眠れた?」

なぎささんは集合時間より早く、人気のない海岸で座っていた。

「はい、この島は暑いですが、自然が多く海もきれいで素敵なところですね。」

「そうね。 どう?  一緒に泳ぐ?」

「え!? いや・・・」

「アハハ!冗談よ! 君ほんとウブね。」

「一応任務中なので・・・」

「まあそうだけど、今は休んでいいわよ。 辛いことが多い仕事なんだから、

心を休めるられるときには休まないと。 真面目なのね。」


「すみません。 今回の任務、僕だったら正直手を引こうと思ってました。

島民の人達はヤマトさんを信頼しているようですし、なぎささんのように怪しいとも思わなかったと思います。 なぜ怪しいと・・・?」

「私は人を信頼してないのかもね。 なぜその人間が悪魔になったのかなんて私にはわからないし、会ったこともない他人のこと。

人類の9割がD因子を持つし、初めから怪しんでるからなのかもね。」

(確かに、最初から疑ってかかればちょっとしたことも気になるか。)


「君の前回の任務のこと、忍の子に聞いたわよ。 子どもの悪魔とその親に同情して、叱ったこと。」

「やりすぎですかね・・・? 親族とかに干渉しないのが教団の教えに反するのは分かってます。」

「ううん、そんな人がいてもいいわよ。私ができることなんて、悪魔を退治することでそれ以上は背負いこまないようにしてるの。 ただ、頑張りすぎないようにね。

あなたが悩めば悩むほど、悪魔は誘惑してくるわよ。」

渚さんの言葉に少しだけ胸がすっと安らいだ気がした。  


「ありがとうございます。 胸がすっとしました。

 夜まで待機ですかね?」

「そうね。今日私たちはすでに島を出ていることにしているから夜まで隠れてないとね。 エルの聞いた話だと、今日の夜、彼は何か行動を起こす。 

その時まで待機ね。」


ただ、このまま一緒に待機しているとドキドキしてまずいので、

邪念を祓うのも含め、渚さんに夜まで修行を付けてもらった。


―――― 夜 ――――


「彼が動いたそう。 行くわよ。」

深夜にレイから連絡受けたので、なぎささんと一緒に指定された場所に向かった。


城を覆っている森の中でヤマトさんは、誰かを待っている様子でキョロキョロしていた。

「誰かと待ち合わせしてるんですかね?」

「そうみたいね。」

僕らは木に登って高いところから彼を観察し始めてから10分後、一人のすらっとした成人女性が現れた。


「明後日には必ず用意するといっただろ! 頼むから帰ってくれ!」

ヤマトさんはかなり焦った様子で、その女性に懇願していた。

(用意するって何をだ・・・ あ、了解です。)


「私は昨日忠告したはずよ。 用意できないのならこの島の人間を全員殺す。」

「話が違う! こんな短い期間で用意なんかできるか! ここ最近要求がおかしいんね!」

「もう変わっていくのよ・・・  それにあんた。 自分の護衛連れてきたのね。」

「何を言ってるんね!?」


僕ら3人はすでに下の2人を取り囲むように陣形を取っていた。

「さっき忍の子から連絡を受けたわ。 島には昔から、生贄として子供をささげるしきたりがあるの。 おそらく昔からこの島は悪魔とグルだったのよ。」

耳につけたイヤホンからなぎささんの説明が入る。


「はあ、せっかくうまくやってたのに。 邪魔しないでくれる?」

悪魔は人間の姿から本来の醜い姿に変わっていった。 色白く四肢を持ち、背中から何本も蛇の頭が生えていた。


「危ない!!!」

―― 固有霊術 “瞬転” ――

ヤマトさんに向かって、背中から伸びた1匹の蛇の攻撃を剣を受け止める。

「逃げてください。」

そう言うと、彼はくるっと振り返り、一目散にダッシュで逃げて行った。


「なぜあの男を庇う??」

悪魔が僕に尋ねる。

「あの男は昔から自身の命と金のために、罪のない人間を差しだしてきたのだぞ。

そんなやつ助ける義務がお前たちにあるのか?」

(・・・そんなことわかってる。 確かに許せない。 

 なんでみんなそんなに悪魔に加担できるんだよ!)

前の任務で出会った母親のことも重なって、怒りがこみ上げてきたときだった。


「グハッ!!」

迷っていた隙を疲れ、背中の蛇に後ろに吹きとばされた。

(ダメだ。集中できていない。)


その後も僕ら魔師3人を相手に悪魔は蛇を使い、僕らを近づけさせない。

気づくとさっきよりも蛇頭の数は増えていた。

(隙がないな。 くそ! 渚さん、エルだっているのに・・・!)



「しまった・・! イツッ!!」

“瞬転”術を発動できず、目の上を蛇の牙をかすめ流血した。

―― ガキイ!! ――

追撃はなぎささんが目の前で弾いてくれた。

「戦えないのなら下がれ! 迷惑!」

迷いを見抜かれたのだろうか、渚さんに一喝されてしまった。

「すみません。」

攻撃をはじく一瞬の間に、渚さんはこっちを見ることなく、

僕の服をぐっとつかみ、後ろに放り出した。

(くそっ。 どうすればいいんだよ・・・ 術が発動できない・・・)

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