第16話 覚醒

ビルの敷地から出る直前、周囲に黒い霧が包み込み次第に一つの塊へ変化した。

(なんだ、こいつは・・・?)

人間と同じ顔をしているが、血のような黒赤の翼と尾をもっている。 対峙しているだけでも圧倒されるような眼力だ。

「ソラ君、彼女を連れて逃げて。 援護が必要ならこっちから呼びかけるから。」

「私も戦います。」

「だめだ。 けがをしているから戦わせない! まずは彼女を安全なところへ。」

「・・・了解しました。 ただすぐに呼んでください。増援依頼も手配できますので。」

「うん、まずは彼女を頼んだ。」



静まり返った夜の闇の中、戦闘態勢をとる。

「カカカカカカッ!」

悪魔は気味の悪い音を鳴らしこちらを見ているが、棒立ちのまま動かない。

(このままどこかへ行かないかなあ。ぶっちゃけ体力はあまり残ってないんだよ。)

「カカカカカカッ!」

(はやっ!)

一瞬のうちに間合いを詰められるが、寸前で悪魔の攻撃を躱す。

―――― ガキィィンッ ――――

後ろに下がろうとするが、尾がこちらに伸びてきて攻撃に転じることができない。

ぐっと力を込めて飛び上がり、後ろのビルの2階まで一気にとび上がった。


(ぐううう。 身体が重い・・・)

「はああああ!」

こちらを追って2階まで同じように飛んできた悪魔と鍔迫り合いになる。

この硬い尾が厄介すぎる。切り落としておきたいところだ・・・!


―――― バリイイインッ ――――

尾に足をつかまれ、ビルの外へ放り出された。

「おわあああああああああああ、おわっ!」

ガッと空中で足首をまたつかまれ、思わず剣が手から落としてしまう。


「――― うわああああ!!!」

壁を突き破るほどの威力で再びビルの中へ放り投げられる。

(このまま好き放題させるかよ!!)

態勢を整え、飛んでくるタイミングを計って顔面に右ストレートを叩き込む。

よろけさせた後、さらに連続で打撃を与える。

 

バキッとタイミングが合い、お互いが同時に殴り合ったような形になった後、

尾で足元をすくわれ床に転がされる。



―――― ドガアアアアアンッ ――――

両腕でガードした上から、踏みつけるような蹴りの衝撃が床をつき抜いた。

(今3Fか・・・! このまま何とか外へ飛び出して、剣を・・!)

急いで起き上がり、窓を体で突き破り剣めがけて飛ぶが、

悪魔が先回りして目の前に現れた。

(くそ! やばいガードを・・・!)

「――― がはっ!!!」

悪魔の蹴りで再びビルの中に体を吹き飛ばされ、廊下をゴロゴロと転がった。

(ああもおお! 行ったり来たりでまともに戦えてない・・・!!!)

「お前・・・混ざってるのか???」

(なんだこいつ・・・しゃべれたのかよ)

悪魔がこちらに近づく。 低く、かすれた声だ。

「?? 混ざってるって? 何のことだ?」

「ルシファーが言ってたのはお前か・・・?   まあいい。動けなくして身体を裂けばわかることか・・・」

(今、こいつなんて・・・? あの悪魔の王、ルシファーだと?)


「カカカカカカッ!」

壁を背にしてヤツの攻撃を防ぐことで精いっぱいになっている。

(だめだ!まずはこいつに集中しろ!)

(こいつは身体能力に特化した完全な戦闘タイプか。このままだとじり貧になる。)

「―― いつっ!!!」

鎖骨に尾を突き立てられてしまった。 ヤツと距離を取らないとと思い、

悪魔の上を飛んで反対側に行こうとしたが、急に目の前が真っ暗になった。

(・・・・あれ? なんだ。身体が・・・)





目を覚ますと、僕は地面に転がっていることに気づいた。

(あれ? いつの間に外に・・・ さっきまでビルでヤツと戦ってたはず。)

「――― がっ!!!」

頭を思いっきり蹴られ、何メートルも横に吹っ飛ばされてしまった。

(意識が・・・あの尾にはまさか毒が・・・)

「ぐっ・・・!」


体を尾でぐるぐるにまかれ、悪魔の前にさらされる。

「お前からはなぜ両方の意思を感じるのか・・・?」

「っがあああああああああああああああ!!!」

頭をわしづかみにされ、強く握られる。頭が割れそうだ・・・!


ーーーー 退魔師は人を守るためにある ーーーー


死を意識したとき、ふとマサトの言葉が頭に浮かんだ。

(くそ。 頑張るって決めたろ・・・! マサトに言われたことをやり遂げろよ!!

ソラ君とあの母親だけでも助けろ! 

どうせ死ぬなら、やるだけやって死んでやる・・・・・!!!!)


「力を・・貸せ・・・!」

自分の中にある力を増幅させるイメージをする。 水中にある火を強くたぎらせるようなイメージで。

今までは力の暴走を恐れて抑えていたが、もうなりふり構ってはいられなかった。

(・・・もっとだ。受け入れろ! 恐れるな!!)

集中しようとするが、痛みに思わず意識が飛びそうになり。

まだまだうまく力を制御できない。


(くそっ!! 今変わらないでいつ変わるんだよっ! 

 いつまで守られるつもりなんだよ・・・  もう目を覚ませ!!

 守るための力だろ!  だから・・・よこせ。)


「俺に・・・!  守らせろっ!!!」


かすかに動く左手で、悪魔の胸に手を添える。

「もうお前には何もできまい。 もう心臓も時期に止まる。 

その前にお前の正体を見てやる。」

(すべてを、こいつにぶつけるイメージで・・・!)


―― 固有霊術 “邪視” ――

「・・・潰れろおおおおおおおおおお!!!!!」

最後に聞こえたのは“ぐしゃっ”と何かがはじける音だった。

自分の頭か、悪魔が潰れたのかはわからなかった。

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