第12話 単独任務2

――― コンコンッ ―――

朝6時にホテルの部屋のドアをノックする音がしたので、僕は立ち上がり傍に置いていたカバンを肩にかけた。


「今出まーす。」

扉を開けた廊下に立っていたのは昨日の電話の相手である”忍“の人が立っていた。

黒の和装に白い帯、目鼻立ちがキリっと青年だった。

僕より年下だろう、18歳くらいか。 背も165くらいで若干小柄な印象だ。


「では向かいましょう。 目的地までの車移動の許可はもらっています。」

「あ、うん。」


基本的に退魔師が任務に向かう際は、公共交通機関を利用して任務に向かうのだが、

特に規則はない。マサトのように自分の車で移動する人もいるので、僕も彼の車をそのまま引継いで使わせてもらっている。


「あのさ、名前教えてもらってもいいかな?」

さすがに移動中の車中の空気の気まずさに堪え切れず口を開いた。

「“忍”と呼んでいただければ結構です。」

この空気を変えようと話しかけたが、シャッと壁を作られたような返事をされた。

(この子人見知りなのかな。 さっきからまったく表情崩さないし。)


「うーーーん。 でも“忍”って呼びずらいし、僕はじめて“忍”の人と任務を一緒にするからいろいろ知りたいな―っと」


「・・・分かりました。」

(いましゃべる前にため息ついた。こわっ! なんで!? 変な名前とか・・?)


「“ソラ”です。」

「“ソラ君か。 よろしくね。」

(名前は普通やないか。 なんで怒ったの)


「目的地に近づいたら私が目的地までナビします。 そこで職制の一人である方と合流して任務にあたる予定です。 私は今後あなたの専属として共に行動します。」

「ん? 専属? 初耳だよ。」

「クリスさんの指示です。」

(マスターかあ。 この一連の指示はすべてあの人か。)

彼の距離のある話し方をするのに戸惑いながら、道中の会話は彼のケータイが鳴るまで一切なかった。


「・・・・・・はい。 了解です、 失礼いたします。」

ソラ君あての電話がようやく終わったようだ。

「イチさん。 すみませんが、いま別の任務が入りました。

目的地までの道中に悪魔の出現報告がありました。 

こちらを優先しろとのことです。道案内が私がします。 

ここから1時間ほどで到着しますので。」

「了解、よろしく。」

(またマスターの無茶ぶりか。 もういちいち気にしないようにしないと。)

僕たちはいったん任務に向かうまでに、道中にある別の町に向かうことになった。



「ここです。」

「ここですって・・・これは廃ビル・・・みたいな。」


街のはずれに、一つだけ一際大きく廃れたビルが目の前に立っていた。

まだ時刻は昼過ぎということもあってか、特に悪魔の気配を感じることはなかった。


「先日、ここに数名の男女グループが肝試ししに夜中にビルに

入っていったそうです。

そこで女の声を聞き、異変を感じて全員慌てて外に出たところ、

グループのうち一人の女性だけいなくなったそうです。

今まで、いわくつきのビルだと近隣の住人の間では言われていましたが、実際に被害が出たのは今回が初めてだそうです。」


「なるほど。それで悪魔の仕業ではないかということか。

ただ、今回被害が出るのは”初”っていうことはここを根城にしていたわけじゃないのか。」

「かもしれません。 とりあえず調査してみましょう。」


僕らは最上階まである11Fまでくまなく探し回ったが、ところどころ建物の耐久性に難がある以外は特に問題はなさそうだった。


「もう一度見て回ろう。 それで何もなければ上層部に指示を仰ごう。」


ビルの前に止めた車の中で夜中になるまで待つことにした。

(マサトがいない任務は2回目ということもあって、不安だけど頑張らないと。ソラ君もいるし。ひとりじゃない。)

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