第11話 単独任務

森の中を車まで歩いて戻っている中、すぐに外は暗くなってしまった。


「暗くなっちゃったね。」

「うん、ごめんね。 こんなに遅くなる予定はなかったんだけど。」

「大丈夫だよ。 いっつもこのくらい暗い中で仕事してるし。

それにしても昔からユリはすぐに謝るよね。 僕に対してそんなに謝る必要はないよ。」

「そうかな? そんなに謝ってたかな?」

ユリは照れくさそうに下を向いた。

「うん。幼なじみだし、そこまで気を遣わないで。 それにユリは謝ることなんかほとんどしてないし。」

「うーん。 それは癖かも。 気にしてなかった。 

でもイチも昔から変わってないよ。 あ、昔から変わったことがある!」

「なに??」


ぼくは昔どんな性格だったのかあまり記憶にない。

不思議なもので孤児院で過ごした仲間のことはよく覚えているが、自分のことって記憶にないものだなあと思った。


「今日みたいに誰かにあんなに怒るの、私初めて見た。 昔からふんわりした雰囲気で名にしたら怒るのってくらいだったのに。 今日のことは少しびっくりしちゃった。

あんな表情初めて見たから。」

「そうかな? そんなにぼーーっとしてる子だった?」

「ぼーっととは違うよ! なんかふわふわしてた。」

「わかりづらいよ! それに僕だってたまには怒るよ。」


クスクスとユリは笑いながら当時の僕の雰囲気を言葉で説明してくれたが、いまいちピンとこなかった。

「でも、優しいっていうのは変わってないよ。 自分以外のために怒れる人ってそうそういないと思うの。 イチのいいところ。」

「そう? ありがとう。 でも優しさではユリにはかなわない、 勝ち負けではないけど。」

「え!? あ、私そんなに優しくないよ・・・」

「その褒められると顔を赤くしてうつむく癖も変わってない。 そこも勝てない。」

「いぢわる・・・。」


昔話をしながらセントラルに着いた時には、外はすでに真っ暗になっていた。

「今日は付き合ってくれてありがとう。しばらく見ない間に頼りになってた。

子どものころはお兄さんとマサトの後ろに隠れてたのに」

「まあ、末っ子なんで。 でもまだまだしっかりしないとね。

マサトの分までこの仕事にすべてをかける。 ユリも頑張って! 新しい防護服の完成を応援してる。」

「ありがとう。 お互いに頑張ろうね!」

ユリは最後に何か言いかけたが、そのまま手を振って僕らは別れた。



―――ブーブーブー――

手首につけている時計型の端末が震えて電話が鳴っていることを知らせた。

画面を見ると、未登録の番号だったが教団専用の端末からの着信のため嫌な予感がするが、ポケットからケータイを取り出し、電話に出た。

「はい。」

恐る恐る電話口の声に耳を傾けた。

「明日から任務だ。’華夷’に向かえ。 明日”忍“に迎えをよこす。」

「え? 誰ですか・・・? もしかしてマスターですか?」


―――ブツ ツーツーツー ――


マスターの声だとは予想できたが、用件だけ言われて切られてしまった。

(どういうことかさっぱりわからない。相変わらず声怖いし・・・)

とりあえずケータイで”華夷”を調べると、セントラルから車で6時間くらいかかるようだ。

そこは退魔師の武器となる”妖魔鉄“が取れる唯一の地であり、炭鉱で栄えているらしい。


―――ブーブーブー――

ポケットにケータイをしまうと同時に再び手首につけている時計が震えた。

(次はなんだ・・・?)

嫌な予感がする中、電話に出た。

「はじめまして。 明日お迎えに上がる”忍“のものです。」

今度の電話の相手は若い男の人の声だった。

「明日イチさんが止まっている部屋に朝6:00に行くようにと指示がありました。

それまでに準備の方お願い致します。」

「え!? 6時?? 」

おそらくマスターだな。 自分の知らないところで話が進んでいることに困惑する。


「では、失礼します。」

「あ! ちょっと待って!」

―――ブツ ツーツーツー ――

またこっちの都合お構いなしに電話を切られてしまった。

今までマサトとコンビを組んで行動していたから、”忍“の人と任務にあたるのは初めてになる。 “忍”の人はあんな感じでぶっきらぼうなのかも知らないくらいだ。

(はあ。 明日から不安だな。 まずは仲良くやれるようにがんばろ。)

僕は急いで帰って明日の準備をして寝ることにした。

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