第10話 守るべきもの
さっきまでいた場所とは打って変わって空気が冷たくなった。
2時間ほど歩いただろうか。 チョコが反応した。
「ちょっとおろしてください。 においがします。」
ユキが教団から借用した金の鳥の羽のにおいをもとに、人間より嗅覚がいいチョコがにおいをかぎ分けたようだ。
チョコがそこら1一帯を10分ほど探索すると、血の付いた羽を発見した。
「黄色の羽だ、これは金の鳥のものだよ。」
ユリの言葉にあたりを見渡すが、見渡す限りの緑と木でおおわれている。
「ほかの動物におそわれたか・・・」
(さすがに人間の仕業ではないと思うが、警戒した方がいいかも。)
僕は腰に掛けた剣を取り出すいように鞘についているロックを外した。
「休憩したら、もう少しだけ奥の方に行ってみよう。」
これ以上奥まで探索するのは危険だ。 体力もあるし、暗くなるのも早い。
僕らはあと1時間だけと決めて再開した。
「あ。」
決めた1時間まであと5分となったとき、ユリが興奮しつつ抑えた声で僕を呼ぶと、
15メートルほど先に、金の鳥の羽が木々の間からちらっと見えた。
「寝てるのかな・・・?」
確かにユリのいう通りに羽は一行に動かなかった。
僕らは息をひそめ、ゆっくりと近づいた。
「血の匂い・・・」
途中、肩に乗ったチョコがぽつりとつぶやいた。
嫌な予感が頭をよぎり、まさかと思って近づくと金の鳥が倒れていた。
(狼?熊か・・?)
ユキはそっと金の鳥に手を当て、中腰になってやさしく語りかけた。
「痛かったね・・・ゆっくり休んで。」
うす暗い樹海の中、そこにだけ淡い光が当たっているかのように、その姿はまるで聖母のように見えた。
―――ガサッーーー
ふいに森の奥の方から木々をかけ分ける音が聞こえた。
目を凝らし、音のする方を見ていると数匹の狼が現れた。
「彼らの獲物だったようだね。」察するにこの金の鳥は狼の群れに襲われたようだ。
僕らに獲物を取られると思って出てきたのだろう。
「どうする? ユリ、 ちょっとだk」
―――ダンッーーー
銃声が響くと同時に、狼の群れの中の1匹が横に飛ばされるように倒れた。
「下がれ!」
すぐにユリを背後に立たせ、かばう様にして臨戦態勢をとる。
「見つけたぞーーー」
僕らが来た方向とは反対から犬を連れた3人の見知らぬ男たちがこちらに歩いてきた。
一人は砲身が長い狙撃用の猟銃を持っている。狼の撃ったのはあの男だろう。
もう一人はシカの屍を肩に担いでいる。
「おいお前、その鳥から離れな。 こいつは俺が持って帰る。」
先頭にいた一番ガタイの良い男がしゃがれた声でこちらを脅してきた。
(密猟者か、金の鳥を売るつもりか。)
「悪いけど、むやみやたらに生き物を奪うやつらのいうことに協力はできないよ。」
僕の言葉にすぐに内ポケットから銃を取り出し、こちらに向けた。
「じゃあ死ね。」
銃声より1瞬だけ早く体を横にずらすことで弾を躱し、そのまま密猟者たちめがけて
全速力で突進し、剣の鞘で顎を打った。
「てめえ・・・」銃を撃ってきた男が手に持ったままの銃をこっちに向けようとするのが見え、僕はすぐに蹴り飛ばした。
一人の男が持っていた大きなずた袋が地面に落ち、そこからリスなどの小動物が生きたまま入れられていた。
(なんでこんなひどいことができるんだ・・・ それに躊躇いもなく撃ってきた。)
「おい、女の子だっていたんだぞ。 違法な狩猟行為に、罪のない人間に向かって発砲するなんてまともじゃない。」
怒りを抑えきれず、男の胸ぐらをつかむ。
「これは仕事だ。 てめえらが邪魔するからだろ。」
苦痛にゆがんだ顔をしているが、眼だけははっきりとこっちを睨み付けてきた。
「だからって・・!」 思わず右手に力が入る。
「もういいよっ!」
後ろにいたユリの声にハッと我に返った。
(そうだ。 だめだ、約束しただろ・・・)
彼らに背を向けユリの方へ向かった。
僕が離れるのを確認すると、狼たちが戻ってきて男たちに向かって吠えながら走っていった。
「ありがとう。もう大丈夫なの?」
「うん、あの狼は群れの意識が強くて仲間の報復をするんだ。 昔マサトがその習性を使っ使ってたのを見たことがある。 だからあとはこっちが手を出す必要ないんだ。」
退魔師は人を守るもの、人間に力を行使することはできない。 それに約束もある。
(ユリがいなかったら・・・)
「少しだけ、この子の命を分けてもらうことにするね。」
ユリは背負っていたリュックからナイフ取り出し、ほんの少しだけ、皮膚を剝ぎ取り布にくるんで鞄にしまった。
「本当はね、生息していることの確認だけのつもりだったの。 金の鳥の生態は分かってないことが多くて、まずはそこから調査しようと思っていたから。
でも、この子が生きている環境は本当に大変なんだね。」
「うん、でも人間ができることは黙って見守ることが一番大切なことなんだと思う。」
「私、素材にするっていう考えが間違っていた。 研究してもっといいものを作らないと」
僕らは金の鳥に感謝して、来た道を戻った。
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