第9話 幼馴染の女の子
ぽつんとセントラルの真ん中に一人取り残されてしまった僕は、前回の戦闘で傷ついた防護服を修理してもらおうと、教団の研究施設に立ち寄った。
狭い入口にとりあえず作ったような小汚いカウンターには誰もいなかったため、そこに置いてあったベルを数回鳴らした。
「はーい! 今行きます。」
お世辞にもきれいとは言えない奥の部屋から似合わない透明感のある声が聞こえた。
「あれ? もしかしてイチ!?」
奥から出てきた女性と目が合って数秒後、彼女の方からぽそっと名前を呼ばれた。
「もしかして”ユリ”・・・?」
「そうだよ! イチ久しぶり!」
ユリは同じ孤児院で育った同い年の幼馴染だ。 セントラルで働く両親が離婚し、10歳のころ孤児院に連れてこられた。
「今もここで働いているの?」
「うん、そうだよ。 今は休憩中。 てか、大丈夫? 服ボロボロで、傷も・・・」
「大袈裟だね。 大丈夫だよ。」
(ユリは本当に優しいな。 心配性なところは変わってない。)
「そう。 あと、マサトのこと聞いたよ。 悲しいよ・・・」
伏し目がちに話した。
「うん、そうだね。」
「今度お墓参りに行かないと。 孤児院だよね?」
「うん、ユリが来てくれるとマサトも喜ぶよ。」
マサトは面倒見がよがったので、彼女も慕っていた。
僕らはそこで少しだけ、思い出話に花を咲かせた。
「そうだ、明日空いてるかな?」
一つ昔話の下りが終わり、少し間が空いた後に彼女が尋ねてきた。
「うん、今のところは任務を請け負ってないから空いてるといえば空いてる。」
「じゃあちょっと手伝ってほしいことあるんだけどさ、一緒に満月山についてきてくれない?」
「満月山・・・?何しに?」
「それは当日に話すね。私もう休憩時間終わりだから仕事に戻るね。」
「うん。 あ、この防護服を修理してもらおうと思ってきたんだけど!」
「あら、そうなの。じゃあ預かっとくね。 そこ置いといて。」
「了解。」
僕は来ていた防護服をカウンターに置いてから施設を後にした。
翌日の昼過ぎごろ、僕の車で満月山に向かった。
「さて、そろそろ目的を教えてくれてもいいんじゃないかな?」
「そうだなぁ、チョコ君も知りたいよね?」
チョコは僕についてきたはいいが、行く当てもないので一緒についてくることになった。
チョコが知りたいと答えると、ユリはくすっと笑ってから答えた。
「あの山にフォーチュンバード、通称”金の鳥”が出たっていう話があるんだ。
私の職場に噂程度だけど、店に来たお客さんが言ってたらしいんだ。」
「それはめずらしいね。 僕も見たことないや。」
金の鳥と呼ばれる生き物は鳥類に属しているが、空は飛べず、大人の身長くらいのボディをしている。非常に憶病な性格をしていてめったに人間の前に姿に現さないため、非常に高い値段で取引されることもあると聞いたことがある。
「それを今日確かめに行きたいの。 そこで最近の調査でね、金の鳥の筋肉に特殊な性質があることが分かったの。」
(新しい防護服を作るから素材のチェックをしに行くってことか。)
「今までの悪魔祓い師に提供していた防護服は、衝撃に対して強度が変わる特殊な素材を使っているんだけど、ある一定の衝撃に対してすべて同じに強度に変わってるのは知ってるよね?」
「え?ああうん、そうだね。」
僕は実際そこまで詳しくはなかったが、とりあえず黙っておくことにした。
「そこで”金の鳥”の素材は、衝撃によって強度が変わるの。
つまりイチが来ている防護服は1~10の衝撃に対し、10の強度を取っていたの。
それが“金の鳥”の素材を使うと、1~10の衝撃に対して強度も1~10にとれるようになるの。
今の服の素材のままだと重くなっちゃうし、衝撃が強いと服も重くなる。」
「なるほど、衝撃が強ければ強いほどより防御力も変わり、動きやすくなるのか。」
「うん、それを次の新作に取り入れたいと思ってるの。素材を調べ上げて、
ほかの素材で代替品を作りたい。それでイチ達退魔師の力になりたいの。」
ユリは優しい性格だから他人のために自分の行動を起こせるはすごいことだと感心した。
「今日見つかるといいね。」
「憶病な性格だから、暗くならないと姿を現さないといわれているの。
探す時間は短いけれど、見つかればラッキーだね。」
僕らは満月山のふもとに到着し、車を止めて徒歩で森の中へ向かった。
この山は全国でも有名な霊場であり、近寄ることはお勧めされている場所ではない。
なんでも奥の方の樹海は、人が近寄らないため自然が生い茂ってることもあり、動植物であふれている。
「こっからは迷うから、こいつを使うね。」
僕はスマートフォンを取り出し、今いる地点を記録させた。
教団が開発したこの高性能GPSで足跡をたどることができる。
木々が生い茂り、日光に遮られ暗くなっている山の奥の方へ僕らは向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます