第8話 最強の男
「じゃあ行ってきます。 お世話になりました。」
僕たちは孤児院のみんなに感謝の気持ちを伝えた。 さくらに懐いている子どももいたので寂しそうだった。
「気を付けて、いつでも帰ってきていいからね、 マサト君も待っているから。」
「ありがとうございます。シホさん。 そうします。」
シホさんはいつもの優しいまなざしで、エイシンさんは相変わらずむずしそうな顔をしたままだった、
僕たちは孤児院を後にし、教団に向かうことにした。
クルマに乗り込む際、運転席に掌に乗るくらいのネズミみたいに、猫のような耳が生えた生き物?が寝ていた。
(なんだこの生き物は・・・?)
「なんか変な生き物が寝ているんだけど・・・」
さくらに伝えると、彼女は目を輝かせた。
「かわいいいいいいいいい! なにこの子?」
すでに助手席に座っていたさくらの声にその生き物は眼を開けた。
ぱっちりした目に体は白い毛でおおわれている。
「おはようございます!」
2人でその生き物を見つめていると、車内に小さい声がし僕とさくらはお互いに顔を見合わせた。
「さくらじゃないよね・・・?」
「うん、違うよ・・・」
まさかと思って再び運転席に視線を落とすと、まさかが的中した。
「はじめまして。私はチョコと申します。」
(うそだろ、しゃべってるよ。)
あっけにとられていると、チョコと名乗った生き物はつづけた。
「ごめんなさい。寝床がなかったので、ここで寝てしまいました。 すぐに出ていきます。」
そういうとペコっとお辞儀をし、とことこと歩き出した。
「待って、チョコはどこに行くの?」
さくらが尋ねると、もじもじしながら体の向きを変えて答えた。
「セントラルを目指しています。」
「あれ、歩いていくつもりなの?」
「はい。 まあそのつもりです・・・」
「遠いよ。俺たちセントラル今から行くけど乗っていくかい?」
「いいんですか!? お供しても!」
ぴょんっと飛び跳ねて喜びを全身で表した。
半分冗談のつもりで言ったが、かわいらしいし一緒に行っても大丈夫そうかな。
「さくらもいいかな?」
彼女は小さくうなづき、チョコに向かってお辞儀をした。
「うん、よろしくね。 チョコちゃん。」
はい!と答えたチョコは照れたのかもじもじしていた。
「私が調べたところによると、セントラルはこの国最大の都市と聞いてます。」
車内でチョコがさくらの手に座って力説していた。
「ビルがいっぱいで、特に夜でも中心部はネオンの光でにぎやからしいですね。」
「物知りだね。チョコちゃんは。」
さくらがおだてると、チョコは当然です!と鼻息を荒くした。
東に進むにつれ道路が整備され、車の台数も比較にならないくらいに増えてきた。
「チョコ、大丈夫? さっきからそわそわして外を見てるけど」
今やチョコは僕の肩に乗り、さっきとは打って変わった外の景色を見ていた。
「いえ、全然そわそわしてません。」
(完全にビビってるよな。) そうこうしていると教団の前にたどり着いた。
「なんか工場みたいですね。」
さくらがキョロキョロと辺りを見渡しながらつぶやいた。教団は敷地内に複数ある建物からなっている。
「よお、めずらしい人間が歩いているな。」
「あ、お久しぶりです・・・マスター。」
マスターと呼ばれるこの男は、筋肉質で2M近い身長。短く整えられた金髪、胸元に大きな傷が見える。
「何しに来たんだ。」
(相変わらずの威圧感だな。)
「あ、えーとこの子は悪魔のせいで家族を失って一人になったので、ここで働けないかということで連れてきました。」
僕が説明している間、マスターは何かを見定めるようにさくらを見ていた。
(全然聞いていない・・・)
「お前に聞いている。」
今度ははっきりとさくらに顔を向けて言った。
「あの、私ここで働きたいんです! 出来ることならなんでもやります。」
「なんでもやるんだな?」
「えと・・・はい。私ができることなら。」
「じゃあ、俺が鍛えてやる。 ついてこい。」 そういうと背を向けてスタスタと歩き出した。
「え・・・? 主任がさくらを直接ですか?」
(そんなこと聞いたことがない。 一匹狼で誰かといるのほとんど見たことないのに。)
「働きたいんだろ? ならば来るんだ。」
さくらは返事をして小走りでついていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます