第5話 死神
――――ガキィ!!!!――――
大きく開いた口を剣で受けて止めたが、すさまじい力で押してくる。
押し合っている状況の中、周囲の風景がぐにゃりと歪みだし、ポリゴン加工したような風景に代わりだした。
(なんだ、これはこいつの力なのか・・・?)
戦闘の最中、周りの風景が切り替わることで気が散り、獣の悪魔との距離がうまくつかめない。
「ごめん! こっちにも悪魔が出てきて・・・!」
イヤホン伝いにマサトに情報展開をしたが、イヤホンからは返事がない。 それどころではないのだろう。 僕の方も獣の悪魔の攻撃に防ぐので手いっぱいになっている。
お互い連携をとる暇もなく、悪魔に追い詰められているのがわかった。
(このままだと二人ともまずい・・・!)
僕はバックスステップを踏み、獣の悪魔から距離をとり意識を集中した。
―――憑依転霊―――
古より悪魔が現れたころより、人間は悪魔を祓うすべがなかった。
そこで天使が人間に悪魔を祓う力を貸す契約を結び、人間は悪魔を祓う力を得たとされている。
持っている剣で手の甲をなぞるように沿わせた。血がしたたり落ち、そこから
身体の周りに黒いオーラが纏い、蜃気楼のようにぶれていく。
「これで終わらせる。」
―――ガキイイイイイッ!!!―――
突進し、何度も悪魔の牙と剣が激しくぶつかり合った。
術を行使し、素早くけりをつけようとするが致命傷を与えられない。
自身の身体能力を向上させているが、やつの動きが速い。
―――バキッ―――
僕の蹴りが相手の腹部にヒットし、道路沿いの木の上に悪魔が距離を取る。
追い打ちをかけようと飛び上がるが、次は悪魔の周囲の風景が鮮やかな花畑に代わる。
(この能力はなんだ・・・距離感がつかめず、気が散る・・・)
次に大きな口を開けて飛び込んでくるが、寸前のところで悪魔の頭を持ち、
自分の身体を持ち上げて入れ替わるように躱し、背中を切りつける。
すると、獣の悪魔の雄たけびと同時に、再び周囲が花畑から宇宙空間のように暗闇に切り替わる。
(気にするな!! 悪魔だけに集中しろ!)
お互い突進し、すれ違いざまに身をひねり悪魔の四肢を切り落とした。
数メートル下の地面に着地し、悪魔に向かって飛び上がった瞬間、
耳元でマサトと戦っていたはずのあの悪魔の鈍く・低い声がした。
「お前は継承者なのか。」
(速い・・・!見えなかった!)
身体が吹き飛ばされる感覚の後に、背中に衝撃が走った。
どうやら、蹴とばされたようだ。 防護服を着ているにもかかわらず、
腹部と背中がひどく痛む。
(まずい・・・早く起きないと・・・)
急いで顔を上げた視線の先にはマサトが僕をかばうように仁王立ちをしていた。
「逃げろ・・・イチ・・・」
ふと視線を落とすと、腹部に悪魔の長い腕がマサトの身体を貫通していた。
ずるりと腕が抜け、マサトが僕に向かって倒れ思わず両手で受け止めた。
(なにが起きたんだ・・・ マサトがやられた・・・?
いや、悪魔を祓わないと・・・ 逃げるべきか・・・?)
まとまらない思考の中で、僕は今まで感じたことのない怒りが湧き上がり
悪魔に対して憎悪であふれた。
「マサト、ごめん。」
そっとマサトの身体を後ろの岩に預け、悪魔と対峙した。
―――憑依転霊―――
「殺す・・・!」
憑依転霊を再度展開し、ただ殺意だけをもって悪魔に切りかかった。
夜の闇の中、剣と悪魔の硬化した腕がはじきあう音が響く。
「急に動きがよくなったな! 怒りが人間を強くする!!」
「黙れ・・・」
何発か打撃を受けているが、痛みは感じない。
もっと速く・・・もっと・・・!
戦いの最中、獣の悪魔が視線の奥で、止めていた車に近づき、
さくらが車から逃げたのが見えた。
「出てくるな!!!」
叫び、さくらの救出に向かうため近づこうとしたが、
強力な右ストレートに数メートル後ろに飛ばされてしまった。
「まだまだだな。」悪魔がさくらに向かっていくのが見えた。
「やめろおおおおお!!!」
僕はすぐに起き上がり、切りかかろうとする中で、悪魔が不敵な笑みを浮かべるのが見えた。
次の瞬間、悪魔はその場で時間が止まったようにぴたりと動きが止まり、僕は悪魔の首を切り落とした。
(なんで・・・? 動きが止まった・・・?)
「お前ら人間は相変わらず弱いな。ほんとにがっかりするよ。」
地面に転がっている悪魔の生首が僕に向かって語りかけた。
(やはり祓ったわけではないのか。 こいつはやはり今までのものとはレベルが段違いだ。)
煙のように悪魔は消え始め、後ろにいた獣の悪魔も同様に消えていった。
「マサト!!!」 ハッと僕は我に返り、マサトに駆け寄り声をかけた。
「だめだ!死なないで。」 マサトは今にも止まりそうな呼吸の中、苦しんでいる。
「・・・よかった、お前が生きていて・・・」
「ごめん。 僕が足を引っ張ったせいで・・・」
「・・・気にするな。 はあ、はあ。 退魔師は人を守るためにある。 悪魔を祓うだけじゃない。
イチ。 お前にはほんと感謝してる。
ずっと一人だった俺と家族になってくれて・・・
あ、車は、お前にやる・・・。」
そう言うとマサトは僕の腕の中で息を引き取った。
「ごめん・・マサト、ごめん・・・」
マサトを抱えたまま、気が付くと外が明るくなり始める時間になっていることに気づいた。
どれくらい泣いただろう。 体中に重りを付けたかのように疲労感を全身で感じた。
身体を起こし、車の中にいたさくらに声をかけた。
「彼が育った場所に埋めたい。 いいかな?」
さくらはマサトを車に乗せるのを手伝ってくれた。 車を走らせるまで、お互い無言のままだった。
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