第4話 始まる悪夢

寝静まってから何時間立ったろうか、真空になったように音一つない夜だった。

(すごい星がきれいだ。 田舎のいいところって星がきれいに見えるんだよなあ。

クルマから見るっていうのもいつも思うけど、悪くないよな。)

僕は助手席から見える夜空に見とれていた。


安らかな気分になり、もう一度寝ようと体を丸めて数秒後のことだった。

――――ドンッ!!――――

大きな音が車内に響き渡ると同時にクルマが上下に揺れた。

「なんだっ・・・!」

思わず声が漏れた。 目を開けたその視界の先には一人のガタイのいい男が

ボンネットの上でヤンキー座りをして、大きく見開いた目でこっちを覗いていた。

(悪魔? なんで・・・? 気付かなかった・・・!)

悪魔が近づくと、周りの空気がひやりとするような感覚がするはず。

でも揺れを感じるまで気が付かなかった! 

今まで感じたことのない圧力と寒気すら感じるその存在感に身動きが取れなかった。

これはまずい、レベルが違いすぎる・・・!

「逃げるぞ!」

マサトの声にハッと我に返った。 確かにこの悪魔は俺たちでは祓えるとは限らない。

圧倒的に情報が足りなすぎる。

エンジンがかかり、車がバックした瞬間だった。

目の前の悪魔が車のフロントガラスを突き破り、後ろに座っていたさくらにその長い手を伸ばしたのが見えた。


「やめろっ!」 僕は思わずその長い腕をつかんだ。

悪魔が低い声でこちらをにらむ。

「おい、おれの愛車に何してくれんだよォォォッ!!!」

マサトが運転をやめ、悪魔の頭に向けて銃を撃った。


「おせえなあ。」

この至近距離で銃弾を躱したのかはわからないが、悪魔には傷一つなかった。

(まずさくらから遠ざけないと・・・!)

僕は体ごと悪魔に向けて押し込む形で助手席から飛びついた。


クルマの外に飛び出した瞬間、先ほどまでに感じていた悪魔の重みは消え、

バランスを崩し、そのまま僕は地面に体を叩きつけた。


「相手をしてやってもいいんだぞ。」

声のする方に振り返ると、悪魔はボンネットの上に仁王立ちしており、こちらを見下ろしていた。

人間に近い見た目をしているが、2M程の身長に長い腕と若干青がかった肌をしている。

いつもの自分だったら怯んでいる恐怖を感じるが、こいつが食っている人間の数は

かなりのものだと対峙した瞬間わかった。

さらに、この悪魔に対して自分のものではないような怒りが奥底から湧き上がってくるのを感じた。

(こいつは何としても・・・!)

自分自身に言い聞かせ、悪魔に向かってとびかかった。

力を込めて何度も刀を振るうが、奴の姿を全く捉えられない。


姿を捉えたと思っていても、次の瞬間には後ろ・横へとすべて躱された。

「おらあああ!!!」 マサトが悪魔の背後から退魔用に改造された巨大な斧をもって悪魔に叩きつけたが、これも躱された。

「どうしよう、マサト・・・」

横に並んで、悪魔と距離をとる。 このままだと勝てないが、負けるわけにもいかない。

「連携して攻撃するぞ、合わせる!」

「了解!!」

まず、マサトが悪魔の正面から斧を振り下ろす。 悪魔が飛んで躱したところに

すかさず切りかかった。 悪魔に攻撃をさせないとマサトと僕で交互に仕掛ける。

何度も防がれ、躱されても攻撃の手を緩めなかった。

「後ろだッ!」 マサトの声にハッとする。

「危なっ・・・!」

(悪魔の動きが見えなかった。 もっと集中しろ!)

紙一重で右ストレートを躱し、体勢を整える。 

「マサト!!」

「任せろ!!」 僕が下がったことで空いたスペースにマサトが飛び込み、斧を横に大振りするが悪魔はバックスステップでこれを躱す。


「お前ら、こういうのを息ピッタリって人間は言うんだろ。いいねえ。」

余裕の笑みを浮かべているが、ヤツが余裕を持って戦っているのかがわかる。

「おりゃああああ!!!」

マサトが振り下ろした斧が悪魔の回し蹴りにはじかれてしまった。

「下がって!!!」

僕はマサトの後ろから身をひねりながら剣を横にふるうが、悪魔はガパっと口を開けて剣に噛みつく。

(嘘だろっ!絶対攻撃が通ったと思ったのに)



「お前らだけじゃ勝てんよ。」

攻撃を躱しつつ悪魔がささやく。 

「勝ってから言えよッ!!!」

マサトと僕がお互い叫ぶと同時に攻撃をさらに激しく仕掛けた。

「チッ」と悪魔の首にめがけて振りぬいた剣が触れ、血が流れた。

「いけるッ!!」そう思った瞬間、腹部に強烈な衝撃が走り、数メートル後ろの岩に体をたたきつけられた。

すごい蹴り・・・少し意識とんだ・・・


―ドガガガガがガガガッ!!!!――

目を開けると、遠くの方でマサトが車に大量に積んでいた銃を持ち出し、

かわるがわる持ち替え、悪魔に向けて発砲している。

深夜の田舎道の路上で、戦闘音がけたたましく響き渡っている。

悪魔は自身の腕をマシンガンのような砲身し変え、マサトに向かって撃ち返していく。

お互い距離を取り攻撃を躱しながら打ち合いが続いている。

(まずい、今加勢すると邪魔になるかもしれない。)

マサトは銃火器が入ったキャリーケースを傍に置き、入っている銃をかわるがわる持ち替えて戦っている。

撃っては攻撃を躱しを繰り返し、重い武器をものともせずに持ち互角に戦っている。

今までの戦闘は本気を出していなかったのか、動きが今までの任務のものとは全く違う。


僕は体を起こし、マサトと連携を再び取ろうと声をかけようとしたとき、

前方5メートルほど先に黒い霧のようなものがかかり、狼の胴体に羽、ワシの頭をした姿をした生き物に形づいた。


「獣悪魔・・・!」 姿が形づいた瞬間、とびかかってきた!

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