第3話 旅立ちの朝と不機嫌な少女
~~~~~~~~~~~~~ 朝 ~~~~~~~~~~~~~~~~
「ピピピピピピピピピピピピ」
枕元にセットしておいた目覚まし時計が鳴り響いている。
寝ぼけながら時計を止めて、時間を確認するとすでに朝の9時になっていた。
7時に起きる予定だったのに、すっかり寝過ごしてしまった。
僕たちが担当しているエリアは教団からかなり離れているから、
朝早くここを出ないといけなかったのに。
すぐに体を起こし、少し離れたベッドで寝ているマサトをたたき起こした。
「急いで準備して! さくらを教団に連れて行くんだろ!」
マサトの体を揺らながら声をかけた。
するとマサトは 「ぶー」 と放屁で返事をした。
起きてるのは分かったので、僕も急いで準備した。
1時間後、二人とも準備ができたのでさくらが泊まった部屋を尋ねた。
「おーーーい、さくらさーーーーん。」
呼びかけて少しすると、ドアが開いてさくらが出てきた。
僕たちはこれからさくらをどうするか、再度話し合うことにした。
ホテルのフロントにある円形のテーブルを囲うように座った。
さくらは、昨日の衰弱しきっていた様子より、心な忍マシになっている様子に見える。
「さて、さくらをどうするかだな。 俺たちが確認するのは教団に行くか?
行かないかだ。 行かない場合であれば、俺たちはこのままこの村を出る。」
マサトのいう通り、僕がどうしたいかを決めるわけではないのか分かってる。
これからどう生きるかは彼女が決めることだ。
さくらは俯いたまま考え込んでいた。少し間をおいてマサトが口を開いた。
「俺たちも暇じゃない。 決まるのを待っていられない。
俺はもう行くぞ。」 冷たいなとは思ったが、確かにマサトのいったことは正しい。
「マサト、僕が昨日言いだしたから、 彼女がこれからどうするか決まるまで、
僕はこのまま一緒にいるよ。」
やっぱりさくらをこのまま一人にすることはできなかった。
マサトが僕になにか言おうとした瞬間だった。
「行きます・・・!」
さくらは決意を固めた表情をしているように見えた。
「いいのか? これは意地悪な質問をするようだが、昨日偶然会った人についてくるってわかってる?」
マサトは真剣な表情で聞くと、彼女は深くうなづき、
「はい、もともと昨日死んだはずなので」
「わかった。 じゃあ行こうか。 イチ、説明は任せるわ。」
マサトが僕に視線で合図を送って、立ち上がり歩き出した。
(さくら大丈夫かなぁ。)
僕の助けるという申し出を受け入れてくれたのはよかったが、一度死んだという彼女の発言が引っかかった。
「これに乗りな。」
マサトがホテルの前に止まっていた黒のピックアップトラックを歩きながら指さした。
旧車のため、見た目はぼろいがマサトは気に入っており、メンテしながら愛用している。
僕が助手席に乗り、さくらは後部座席に座った。
「今から向かうのは、昨日戦った悪魔と呼ばれる存在を祓うことを専門にした
僕たち‘“退魔師“の教団に行きます。 ここから2日はかかるかな。」
マサトの方をちらっと見ると、軽く咳ばらいをしてから
「それくらいかかるかな。 さくらさん、これ自慢の愛車“マキシマム”だ。
あーん。 今日もかっこいいなああん。」
(まーた言ってるよ。 撫でてるし、顔きっしょ。)
道中、僕は自分たちのことを説明することにした。
「まず、悪魔と呼んでいるのは、人の妬みとか怒りなどの負の感情を持った人間を媒介としてこの世にあらわれます。
悪魔はその人間の魂を喰らうことで、この世界に存在し、人間の肉体・魂を喰らいます。
未解決の殺人・行方不明の事件の9割は悪魔の仕業であることがわかっています。」
「僕たちはその悪魔を祓う“退魔師”なんです。」
続けて説明しようとすると、さくらが遮った。
「あの! 」
さくらが急に大きな声を出したので、少しびっくりした。
「この近くに私が住んでた家があります。 本当に申しわけないんですが、
最後に寄ってもらうことって出来ませんか?」
車内に少しの沈黙が流れた後、マサトが答えた。
「いいよ、道案内してくれ。」
僕らはいったん、さくらが住んでいた家に寄ることにした。
少し走ると、道路脇に青い屋根の家が見えた。 「ここです。」とさくら教えてくれた
場所に車を止めた。
「ここに家族四人で住んでいました。 一昨日までは。
みんないなくても、私だけ生きてるんですね。。。。」
さくらが目に涙を浮かべているのがわかった。
「僕とマサトもお互い悪魔によって両親を亡くして、孤児院で育ったんだ。
なんでこんなに人生ハードモードなんだって思ったけど、 孤児院でお世話になった
親代わりのおじさん・叔母さん、マサトに出会えたよ。」
「これは、お母さんの受け売りだけど、大切な人には最後まで笑って生きてほしい
、それに残された人が笑っちゃいけないなんてことはないんだって。」
さくらは少しだけうなずいて聞いてくれた。
「そうだな。 教団までまだ距離あるし、ちょっとくらい車中を楽しんだって
罰は当らんと思うぞ。 せっかくだから仲良くしような。」
僕とマサトの言葉に、さくらは「はい。」と泣いている顔を手で隠しながら答えた。
教団までの道中、車内に流れる音楽について語ったり、
さくらのこと、僕たちのことについて話しながら移動した。
外は暗くなり、みんなそろそろ泊まるところを探さないと思って
車中から宿を真剣に探した。 だが、田舎道は抜け出しきれなかった。
この国は東西に長く、都会と田舎の二極化がひどいため、
僕たちがいる田舎にはホテルを探すのも一苦労だ。
「もう今日はあれだな。」
マサトのつぶやきにまさかと嫌な予感がした。 車がスピードを落とし、路肩に止まった。
「ここをキャンプ地とする!!!」
車内に響くマサトの声に僕はまたか・・・と落胆した。
「マサト、まだ諦めるには早いんじゃない・・・?」
「バカ、ここから街につくまで距離あるのは知ってるだろ! もう10時過ぎたし、寝るぞ。」
「マサトが寝坊したから!!」
「知るか! もうねまーーす。 おやすみ。」
結局山道を抜け出せずに、路肩に止めて野宿することになった。
さくらが心ななしか僕らを後部座席からにらんでいる気がしたので、
車中泊用に車に積んでいる毛布を使うように伝えて、その日は僕も寝ることにした。
この時はまだ、この先の道中を仲良く過ごせるかなとかを呑気に考えていた。
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