第2話 自殺未遂少女

僕は先の戦闘後、砂浜の上で大の字になって休んでいた。


「大丈夫か? 思い切り地面に叩きつけられてたな。」

マサトがこちらに近づき。心配そうに声をかけてきた。

「うん、団服着てたからまだマシだったけど・・・」

悪魔祓いに支給される軍服は熱に優れ、衝撃を緩和される素材でできている。

ロングコートの丈で、重たく見えるが動きやすいため気に入っている。



「いつもフォローありがと。 ツタを切ったのマサトでしょ。」

「気にするな、いつものことだろう。」マサトが背筋を伸ばしながら答えた。

「もう少しだけお前には頼りになってほしいがな。 ほんとは一人で狩れたはずだ。」

「ごめんね・・・」

僕は自分自身が好きにはなれなかった。 退魔師として有名な家系の次男なのに兄と比べると全くうまくやれてない。


「兄は優秀なのに、弟君はぱっとしないよね。」

昔、退魔師の先輩に言われたこと言葉が頭の中で繰り返す。

きっと僕はこのまま危険度の低い地域の指令をこなして一生を終えるのだろう。


帰ろうと再び森の中に進もうとすると、背後の海の方から視線を感じた。

振り返ると、15メートルくらい先の浅瀬に人影のようなものが見えた。

「あれは、人かな・・・?」

問いかけるとマサトも同じ方向を見ていた。

「悪魔っていうオチはないよな??」

マサトの方をちらっと見ると、すでに悪魔用のハンドガンが握られていた。


「とりあえず、こんな夜に海に一人で入っているのはあり得ないだろう。

 照明弾で判断しよう。」

この時、自分でも不思議に思うくらい不安はなく、吸い込まれるようにその影に近づいた。

姿がわかる距離まで近づくと、同い年くらいの女性であることが確認できた。

黒の長い髪で、透き通った目をしている。

「あの~、すみません。」マサトが声をかけた。

彼女は砂浜の方を見つめ、反応がない。裸足で足首から下は水に浸かっている。

「確認するか、」彼女の2~3メートルほど後ろにいたマサトが手に持っていた

小型の端末を彼女に向けた。


「失礼しまーす。」

そういって彼は端末についているスイッチを押した。

これは悪魔かどうかを判断するもので、もしあくまであれば影がおぞましい姿に変える。


「ピカッ」一 光が彼女を包むと、影が浮かび上がるが、悪魔特有の姿には変わることはなかった。二人で安堵した。

「こんなところでなにをしている。」

マサトが彼女に尋ねると、こちらに視線を移した。

返事がないので、マサトが再度質問しようとしたが、急に彼女は我に返ったように膝から崩れ落ち、ボロボロと泣き出してしまった。

「すまん、驚かすつもりはなかったんだが・・・! うーんと、いったんこっちに来ようか。」

僕たちは彼女をゆっくり起こして、肩を抱え海岸に打ちあがっていた

ちょうどいい大きさの石の上に座らせた。

(薬でもやってるんじゃないのか??)彼女を運ぶ間、マサトが小声で呟いたが、

無視することにした。



「おれはマサト。 んで、こいつがイチト。 この辺りで起きた事件を調査している警察です。  落ち着いたらでいいのでなにかあったのか教えてください。」

 いつも僕に話している口調とは異なり、優しく語りかけた。

彼女は少し息を整えてから答えた。

「あの、今はもう大丈夫ですか・・・?」

マサトと僕は顔を見合わせ、僕が彼女の質問に答えた。

「今はっていうのは?」

彼女は涙を流したまま、ぽつりぽつりと話し始めた。

「さっきあなたたちが戦っていた化物のことです・・・

昨日も、家にいて、知らない人が入ってきて・・・ 襲われました。

気づいたら私だけ生き残って、それでどうしたらいいかわからくなって・・・今日もまた化物が・・・」

(昨日も悪魔に襲われて、そしてさっき戦った悪魔に追われていたのか。)

「はい、化物は対峙しました。 安心してください。君だけでも無事でよかった。」

マサトは優しい口調で語りかけた。

(おそらく、家族が悪魔に食われて一人になったという状況か。 

それでも忍すると自殺しようと考えていて、今日も悪魔に見つかった流れなのか・・?)


彼女は今にも崩れ落ちおちそうなくらい憔悴しているようだった。

「マサト、教団に連れていけないかな。」

「お前まじかよ。。。」

僕の発言にこっちをゆっくり見ながらつぶやいた。

「教団ならも忍したら面倒を見てくれるかもしれない、 それに、このまま彼女を

 このままここに放っておくわけにもいかないよ。」

僕の発言にマサトがあきれた表情を浮かべてため息をついた。

「お前なぁ、 ほんとにお人よしすぎるぞ。 

 俺たちの仕事は悪魔を祓うことで、人助けの何でも屋ではないんだぞ。」

それにな。。。。」

マサトは真剣な表情で僕を諭したが、なぜだが彼女を放っておく気にはなれなかった。


「ハア、しょうがねえなぁ。 お前の頼みごとなのか珍しいし、お人好しすぎるのも

お前のいいところだ。 わかったよ。」

マサトは意味深な顔しながら答えた。

「ありがと! でもそういうのじゃないから。」

マサトは完全に勘違いしているな。 後で説明する必要があるな。

「まあ、本当に彼女を教団に連れていくかはともかく、

 とりあえず、近くに俺たちが止まってるホテルがあるからそこで今日はもう休もう。 


きみ、名前は?」


「さくらです。」

彼女は眼を真っ赤にして答えた。


「じゃあさくら。 今日はいったん休もう。 まだ死ぬ覚悟ができていないだろう。 ホテル一部屋借りるから、いったん休もう。」



マサトが彼女にそう伝えて動き出すと、さくらも一緒にホテルについてきてくれた。

僕たちはお互い簡単な自己紹介をしながらホテルに戻った。

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