「君がここにいないから死にそう」とか絶対に言わない

ちゅろす☺♡

第0章

第1話 出会い

「・・・!」


透き通った女性の声にハッと気が付くと、見覚えのないきれいな海岸に

僕は立ちすくんでいた。

手には血の滴った剣を持ったままで、足元は海に浸かっている。

風が吹くとほほが冷たい。 涙を流しているのだと気づいた。 

意識がもうろうとする中で、その風景はこと切れた。


****************************

「イチ。起きろ、仕事だぞ。」

目を覚まして声のしたほうを見ると、短髪でスラっとした筋肉質の男がこちらを見ていた。

どうやらこの隣にいる背の高い若い男に起こされたようだ。

僕は手に持ったモバイル端末の画面を消し、鏡代わりに自分の姿を確認した。

仕事用の真っ黒に赤い線が入った団服。茶色で軽いくせ毛の自分の姿を見て、

さっきまで見ていたのが夢であることを確認した。

任務中に寝るなんてビビりの僕には考えられないけど、

最近指令が続いたからかなとか、瘦せたかなとか画面を見ながらぼーっとした頭で考えていた。


「指令にあったターゲットはおそらくあいつだろうな。」

隣の男が僕に声をかけ、その視線の先を追うと、人通りがない夜の海岸添いの森の中で、

一組の男女が向こうを歩いていた。

この地域はいわゆる田舎に類される場所で、空気がきれいで星がよく見える。

森を抜けて、海岸を散歩しにでも行くのだろう。


「"忍"の話だと連日被害は出ていないと言っていたね。」

「ああ、相当慎重で厄介な悪魔だな。とどめは頼むぞ、援護は任せろ。」

ポンっと背中をたたいてきたこの男は「マサト」といって10年以上の付き合いだ。

幼いころ両親を亡くした僕の家族のようなもので、今の仕事でも厳しく育ててくれた相棒でもある。


頭を仕事モードに切り替える。 

「じゃあ、行ってくるね。」

僕はマサトにそう言って、

向こうにいた男女の5~6Mほど後ろに息を殺して近づき身を潜めた。

さっきまでのぼんやりとした頭はどこかへ消え、

心臓の音がこの森の中いっぱいに響いているんじゃないかというくらい、

体の内側が激しく鼓動している。


「位置についたよ。」小声にマサトに伝える。

「照明弾を撃つ。」耳にしたイヤホンから声が聞こえる。


このイヤホンは仕事をする際の意思疎通用に、団から支給される機材である。

近くにいるメンバーと会話が可能であり、作戦の必需品だ。

今日はよく聞こえる。 機材の調子がいいみたいだ。


女性に向かって男性は懸命に話している。 こちらには全く気付いていないみたいだ。

僕は手を挙げて、マサトに合図を送った。

「パシュッ!!」

サプレッサー付きの銃の独特な銃声がなるとほぼ同時にそこら一帯が光で包まれた。

それと同時に、男女の影の一つが3M程に伸び、おぞましい姿を映した。


「女性の方だ!!!」僕はマサトに告げ、

女性に向かって走りながら、腰に下げていた剣を抜き振りかかった

「ガキイィィッ!!」。

頭を狙った攻撃は、赤黒く変化した女の腕に剣を受け止められた。

(気づかれていたのか・・・! まずは人を逃がさないと。)

「逃げてください!」

隣にいた男性に声をかけるが、しりもちをついたままぼーぜんとしている。

剣を押し込まれそうになっているところに、銃声音とほぼ同時に

女の体が横にぐらついた。

一層剣に力を込める。

「退魔師め・・・」女のつぶやきが聞こえ、次の瞬間強い力に押し込まれ

3メートルくらい後ろに体ごと空中に放り出されてしまった。

もう一度切りかかろうと体勢を整えたが、女はこちらに背を向け、

先の海岸の方向へ森の中に走っていた。


「マーキングしている。 行くぞ!」

後ろから走ってきたマサトとともに女を追おうとしたが、突如腕をつかまれた。

掴んできた人は、おびえた表情の男だった。


「今のはなんだ。。。あの子はどうしたんだ。」

男はしりもちをついたままで尋ねた。

「あの女性はもう・・・人間ではなく、僕らが悪魔と呼んでいるものです。

 人間の姿をしていますが、人の肉体・魂を喰らう化物です。 ここにいると危険ですので、すぐに家に帰ってください。」

ざっくばらんに説明したが、男はなにいってんだという顔をしていた。

「とりあえず、ここから離れてください。

 彼女のことはごめんなさい。。。 あとは僕たちに任せてくれませんか?」

と伝えて、悪魔の後を追うことにした。


(まぁ、いきなり言われてもわからないよな。 悪魔です。なんて言ったところで信じないだろうし。普通に生きていればめったに遭遇することもないだろうし。)

悪魔の方を追って、森を抜けた先の海岸に出ると、マサトが木の後ろに身を隠し、すでに銃を構えていた。

こちらも身を隠して悪魔を確認したが、何かキョロキョロとあたりを見渡し、何かを探しているようだ。


すでに悪魔は完全に人間の姿をしておらず、体中に草花が生い茂った姿に変わっていた。

「なにか探している、近くに人間がいるのかな??」

「いや、さっき一通り見渡したがだれもいなかった。 だけどいると面倒だ、早いうちに狩ろう。 イチ、準備いいか?」


マサトが構えた銃の引き金を引く。 銃弾とほぼ同時に悪魔の頭を直撃した。

僕は銃撃の後に続けて、悪魔に向かってとびかかり、赤黒く変化した腕を振り落とし剣で

切り落とした。

「がああああああああ」

悪魔がうめき声のような声を上げると、足元に草花から生い茂り。

無数のツタが速いスピードでこちらに向かってきた。


(速い・・・!)バク中・バク転と後ろに体をひねりながら回避運動とり、後退した。

後ろの方からガラガラと音が聞こえる。 おそらく後ろにあった木々は倒されたようだ。

再び攻撃を仕掛けようと踏み出した瞬間、地面の下からツタが伸び僕の足をつかんで

空中へ持ち上げた。

ぐっとそのまま地面に叩きつけられた。

そのまま引きずられかけたが、ツタは途中からちぎられており足から離れた。


僕はいったん距離を取り、整理することにした。 ツタは悪魔の足元から伸びた。

長いツタの数は少なく、脆いようだ。

となれば近づいて戦い続けるのは分が悪い。 素早く近づいて一撃で断ち切らないと。

「多少、痛くても我慢しよう・・」

僕は前傾姿勢を取り、悪魔めがけて突撃した。

悪魔の足元・手から伸びるツタをものともせず、突進し悪魔の胴を切り裂いた。

波の音だけが聞こえる中、悪魔の胴体の切口から、灰のようにかわり散っていった。



世界各地に存在する教団の言い伝えでは、悪魔は人間の負の感情につけこみ

、誘惑することで人間の魂を喰らう。

人類の祖先であるアダムとイヴが蛇にそそのかされるままに禁断の実を食べ、その罪としてのちに生まれる人間をすべて罪に導き入れてしまったためらしい。

(通称D因子といわれており、人口の9割が悪魔予備軍といえる)

殺人のような行動を契機に生まれるものもあるが、愛する人の死・嫉妬などの感情にも悪魔は人間を誘惑し肉体・魂を奪うという。

この国でも、例外なく生まれている。


悪魔も元は一人の人間であったことを考えると、僕はただ祓う以外になんとか

できなかったのかと考えてしまう。

悪魔から人間に戻った事例がない以上、できることは祓う以外にない。

僕は退魔師だから。


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