第49話 SIdeリナ、夜も遅く
「やー、ホントありがとね。こんな遅くまでお邪魔しちゃって」
「とんでもないです。今日はこちらこそありがとうございました」
「いつでもお邪魔しにきてくださいね、リナお姉さん」
「もち!」
この家で過ごして何時間が経っただろうか。
玄関まで見送ってくれる二人に、別れの挨拶を交わすリナがいた。
「あっ、そうだ。連絡先も交換したってことで、気軽にメッセージ飛ばしてくれていいからね。お兄さんも」
「あはは、了解しました」
(本当はもっと立ち話したいとこだけど……)
長居しているだけあって、『これ以上迷惑にならないように』を一番に考えれば、手短に切り上げることにした。
「それじゃ、今日はたくさん話したし、キリもいいってことで——」
「夜も遅い時間なので、お気をつけてくださいね」
「了解! ってことで二人ともバイバイ」
「リナお姉さん、無事に着いたら連絡いただけると嬉しいです」
「そっちも了解っ!」
最後に柚乃の言葉に答え、手を振りながら二人に背を向けて帰路を辿る。
——死角になる曲がり角に差し掛かる前、ふと振り返ればまだ見送っている兄妹に今一度手を振り、口角を上げてリナは呟くのだ。
「マジ楽しかったねえ……。もうこんな時間だし」
左手首につけた腕時計に目を向ければ、22時過ぎ。
配信をするにももう遅い時間で、本当に『あっという間』の体感だった。
「それにしても、柚乃ちゃんのお兄ちゃんがカフェの店員さんで、あの鬼ちゃんだったとか……。生活圏が被ってるとはいえ、まさかこうなるとはねえ……」
ただ、こう思う。
(柚乃ちゃんに鬼ちゃん。会えてよかったよ……ホント)
料理仲間ができたこと。
気になっていた同業と交流を取ることができたこと。
時間を忘れてしまうくらい楽しいトキを過ごせたこと。
そして——。
「綾っちが言ってた通りの人だってことも納得……。煽りキャラが全然合わないって」
配信で煽りを武器にしているため、そちらを擁護するのは難しいことだが、『それでもマジでいい人』というのが鬼ちゃんこと春斗に対する印象。
難しい年頃になっている妹にあれだけ尊敬されていたのだ。
実際に話を聞いて、贔屓目なしに尊敬されるのは当然だとも思えた。
(お兄さんがもうちょっとガス抜きさせるようにしたら、柚乃ちゃんもまだまだ素直になれると思うけどね)
大きな、大きな恩を常日頃から感じている柚乃で、一つ一つを返そうとしても、それを超えるスピードで恩を春斗に積まれてしまうのだろう。
処理が追いつかなくなることで、素直になれなくなってしまうのだろう。
『もう今は十分だから、まだ返してないものがあるから、そんなことしないでよ!』と。
(……時期が時期だから『もー』って思っちゃうよね。その気持ちわかるよ、柚乃ちゃん)
自分の中でも嫌に思う反抗期がリナにもあったのだ。
今回、連絡先を交換したのも、『今後も一緒に料理を』という自身の楽しみを叶えつつ、春斗の代わりにガス抜きをさせられる機会を作れたらと思ったから。
(まあ、いろいろ納得だよね——)
「——綾っちが気になってる理由も」
お礼品の紙袋を持つ手とは逆の手。両手で握られた手をグーパーと動かしながあら、ボソリと呟くリナ。
(柚乃ちゃんと同じように優しくしてもらって、不意にこんなことされたんだろうね。……多分)
経験豊富なんていうのはキャラを立たせるために作った偽りの姿。
本当は手繋ぎだって効いてしまうくらいに、女子校出身の綾とどっこいどっこいの経験値なのだ。
「……マジ寝られるかな。今日」
頬を掻きながら、なんとも言えない顔を浮かべて吐露する。
春斗と握った手の感触を未だ忘れられずにいた。
また、ボロが出てもおかしくなかった危機について、は二の次になっていたリナだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます