第48話 春斗の部屋②
「あ、あ……」
ニヤッとしたリナに銀の盾を指さされる今。
あわあわと手を左右に振りながら……すぐ。
銀の盾に飛びつき、抱き抱えるようにして隠し始める春斗だが——全て遅すぎること。
「これなら放送事故を起こしちゃうのも納得だねえ。今ブイブイ言わせてる鬼ちゃん?」
「なっ、なななななんのことですか!? 自分はそんなのじゃないです……! リナさんの勘違いですから!!」
「じゃあその盾に入ってる名前、詳しーく見せてもらってもいいよね?」
「……ダ、ダメです……」
絶対に見られないようにギュッと力を入れながら、首を横に振る。
「じゃあそのPCを作動してもらって、ABEXのアカウント確認させてもらってもいい?」
「……ダメです」
「あたしのチームメイトの綾っちと鬼ちゃんが交流を取ってることは知ってるから、そっちに確認する方法もあるなあ〜」
「…………」
追及されれば追及されるだけ、逃げ場のない状況だと知る。そうわからされる。
真っ青になった顔のまま体をプルプルさせていれば——。
「にひひ、もう詰んでるから観念しよ? 鬼ちゃん」
ニッコリと八重歯を見せて一歩、また一歩と近づいていくリナは、明るい声色で春斗が予想していなかった言葉を口にするのだ。
「——ってことで、会えて光栄だよ。マジで」
「ッ……」
さらに、握手の手を伸ばして。
この瞬間、視線を下に動かしてリナの手に、次に上に動かしてリナの顔に行き来させる。
頭が真っ白になる中でも。どうにか誤魔化しの言葉をどうにか考えようとする春斗だが……それはもう無理だった。
詰んだ状態なのは、本人が一番わかっていることでもあったのだから。
「ほら、早く手ぇするよ」
ほいほいと差し出された手を動しながら、こんな受け入れてくれる態度を取られたらもう、観念せざるを得なかった。
「あ、あの……リナさんからそう言ってもらえて、本当嬉しいです……」
「ひひ、それは光栄で」
差し出されたその手を握り、気恥ずかしく思いながら言葉を返すのだ。
「まあぶっちゃけた話、放送事故を知る前までは『なんだこいつー!』って思ってたけどねえ? 鬼ちゃんのこと」
「も、もうそれは本当にそれは当然のことだと思います……」
頭の痛い話。
こればかりは弁明のしようも、合わせる顔もない。
「まあ、プレイ人口の8割9割が男のゲームで、同性の配信者が数字取るってなったら他にはない強い要素が必要になるもんねえ。Vtuberとか、顔出し配信って強みがないなら特に」
「さ、最初は『煽り』を抜きにした普通の配信していたんですけど、案の定でして……」
「そうなるよね〜」
闇雲に配信してチャンネルが伸びるなら、リナだって分析するようなことはしていていない。
配信でキャラを作るようなこともしていない。
「っと、ごめんごめん。ずっと手握りっぱなしだった。な、なんていうか……マジで骨ばってんね、男の手って。あとはデカいって言うか?」
「えっと、他の男性と比べて自分の手……違和感あります?」
「……ん!? あ、同じくらい同じくらい!」
「ならよかったです。異様にゴツゴツしてたら気持ち悪いこともあるのかなと思って」
「ふ、普通にいい手だから安心してもらって!」
恋愛経験も、さらに踏み込んだ関係も豊富。
そんなキャラを上手に立てたリナで、当たり前に信じている春斗だからこその質問だった。
「んー。あー。それでなんだっけ。ちょっと待ってね。鬼ちゃんに一番話したいことド忘れしちゃって——」
思わずテンパってしまう中。
「——あっ! 思い出した思い出した! 鬼ちゃんにこれだけは聞きたいことがあってさ」
『絶対話す』と心に決めていたことで、すぐに思い出したリナは、紆余曲折しながらも本題に移った。
「これはもしもの話ね? もしもの話なんだけど、『
「えッ!?」
「まだ確定じゃないんだけど、メンバーはあたしと綾っちと鬼ちゃんの三人チームってことで」
「…………」
この短時間で二度、頭が真っ白に。
『煽り』を扱っているだけあって、このような大会には一度も招待されたことがなかった春斗。
そんな手の届かないもの——同業者がワイワイと楽しみ、全員が一体となってたくさんの視聴者を盛り上げている大会には憧れもあったのだ。
さらに参加メンバーが名門のプロチームの二人。
状況の整理に時間を使ってしまうのは仕方がないこと。
だが、反射的に正直な思いが口に出るのだ。
「あ、あの……もしリナさん達が迷惑じゃないなら、是非参加したいです!!」
「マジ!? もう取り返しつかないよ?」
「はい!」
「にひひ、そっかそっか。それじゃあもうちょっとしたら運営さんからメッセージが届くはずだから、その時はよろしくね。大会での鬼ちゃんの立ち回りは今後に要相談ってことで」
「わ、わかりました! ありがとうございます!」
嬉しさを爆発させるように目を輝かせる春斗を見て、心の底から嬉しくなる。
誘ってよかったと思う。
「リナさん、本当にありがとうございます!!」
「っ、うんうん……」
そして、そんなリナに再び握手を求めるように両手を伸ばす春斗。
動作からも『ありがとう』を伝えるその気持ちに応えるように右手を差し出せば——大きな両手で握られる。両手で包まれる。
「で、でもまさかリナさんにそんな権限があったなんて……。本当にすごいといいますか……」
「そうカッコつけたいとこなんだけど……ただワガママ言っただけだったり。今日外出したのはソレに関係してたりねえ……?」
——意識が手の感触に向いてしまうリナ。
「そうだったんですか!?」
「い、今こんなに勢いがあって、周りの印象もよくなってる鬼ちゃんが、参加しないのはホント勿体ないことだし……さあ?」
——意識が完全にもう手の感触に向いてしまう。
長い時間をかけて作り上げた『経験豊富』の仮面にヒビが入る音が幻聴で聞こえるリナ。
ヘルプを出すように包まれる手をプルプル動かせば、「あっ!」という声の後、ようやく解放されるのだった。
この時、心臓が口から飛び出してしまいそうなリナなのであった。
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