第39話 危険信号(黄色)
春斗と柚乃が二枚目に入った絵しりとりをしていた頃である。
「リナさん! 朝起きてビックリしたっちゃけど!」
「にひひ、驚いてくれたようだねえ」
「さすがに驚くよ!」
綾の返信を受け取ったリナが電話をかけ、仲良く通話をする二人がいた。
「スターバックのLAINギフト券こんなにもらっていいと!? 5000円分もあるけん!」
「配信で触れたこともあって、いろんな人に飲んでほしいなって思ってね。だから遠慮せずにどんどん使っちゃって」
「本当ありがとう!!」
「あ、綾っちとオーナー以外には3000円分のギフト券を送ってるから、もし同業に聞かれた時はシーね?」
「わ、わかった! 口を滑らせないようにする!!」
「ども〜」
なぜ二人だけが5000円分のギフト券なのか。それに深い意味はない。
至ってシンプルな理由で、一番お世話になっているチームメイトだからである。
「ちなみに新作のピーチフラペチーノ美味しかったから、綾っちも一回は飲んでみて! 桃好きならマジでオススメ!」
「わかった! ギフト券使って飲んでみるねっ! トレンドにも乗ってたの見てうちも気になってたとよ!」
「さすが綾っち! いいフットワークの軽さで」
「えへん!」
感想を共有できるというのは、やはり嬉しいもの。
声色に喜びを含ませるリナであり、綾も楽しみな気持ちから喜びを含ませる。
そんな矢先だった。
「あ、そうそう。スタバ行くならあそこがいいよ。綾っちの近所にあるところ」
「……正面にコンビニがあるところ?」
少し前を置き、おずおずと答える綾。
「そこそこ! 明日も働いてるかはわかんないんだけど、その店にオススメの店員がいてさ」
「……ほ、ほう」
続けてなんとも言えない反応をする綾がいる。
「そのオススメの店員さんって……店員さんやと?」
「えっとねえ、『絶対モテるわー』って感じの店員でさ。それもチャラい感じはなくて、めちゃくちゃ愛想よくて、わからないこと聞いても嫌な顔せずに丁寧に説明してくれんの」
「お、おお……」
昨日、リナの配信をリアルタイムで見ていたことで——。
普段からそのような店員を知っていることで——。
実際に会いに行ってることで——。
一瞬でその人物のシルエットが思い浮かぶ。
「まあ簡単に言っちゃえば綾っちがめっちゃ好きそうなタイプ。一生懸命で一緒にいて楽しそうみたいな」
「っ!!」
親密な仲だからこそ言い当てられてしまう綾は、まばたきを多くしながら、そそくさと正座に変える。
電話越しに怒られているようなそんな姿を自ら作っているが、これはどうにか心を落ち着かせようという行動。
「ひひっ。思い出すだけで笑えるんだけど、その店員さ、カスタムの質問に答えるために発売初日からピーチフラペチーノ4杯も飲んでてさ。マジでお腹苦しそうにしてたよ」
「あ、あはは……。1杯とか2杯分を小分けにしてカスタムすればよかったとに……」
「いやあ、可愛かったねえ。あんなに一生懸命で不器用な人。あたし初めて会ったよ」
「……」
「ぷっ、あとさ。そんな人だからか、文字は上手なのに描くイラストはめっちゃ個性的でね。昨日の配信に乗っけてるから、気になったら見てみて。元気出ると思う」
「わ、わかった!」
——某人物への確信に近づく言葉がどんどんと出てくる。
まだ確定したわけではないが、もし確定だとすれば一体どんな巡り合わせだろうか。
頭の整理がなかなかつかない。
また昨日の配信を見ていたことを本人に言っていないのは……この件があったから。
そして、ここまで聞けばもう最終確認をしなければ気が済まなかった。
「えっと、リナさん。その店員さんの名前ってわかったりする……?」
「おお、興味出てきてるねえ。鬼ちゃんって人がいるのにさあ」
「で、ででで電話切るよ!?」
「ははっ、ごめんって。名札つけてたからわかるよ。名前」
綾からすれば、『興味が出ている』ではない。
興味しかない、のだ。
「春夏秋冬の『春』に、北斗の『斗』で——
「……」
この瞬間、浮かび上がった。
まだ確定はしていなかったその人物の顔が、大きく。
「……は、春斗さん……ね。春斗さん……」
「明日は仕事で外せないからアレだけど、もしよかったら今度二人で寄ってみる? その人にまた顔出すように言っててさ」
「…………」
真っ白になった頭を支配するのは、『なぜこんなにも仲良くなっているのだろうか』という疑問。
正座したまま、真横に倒れ込んでしまう綾だった。
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