第32話 進展?
「な、なんかその話を聞くに、ますますあの配信スタイルが意味わかんないんだけど。チャンネル伸ばすためとは言っても、自分の相性は考えないとさ」
「あはは……。鬼ちゃん不器用なところあるけんね」
最初はからかおうとの思いで進展具合を聞いたリナだったが、綾からの話を聞けば聞くだけ煽りスタイルとのギャップが生まれるものとなっていた。
同業者という関係もあり、そっちに気を取られる結果となっていた。
「鬼ちゃんの妹の親友さんからも慕われてるって、それもうマジでイイ人じゃん。昔から優しくしてないと、そうはならないだろうし」
「……今だから言えることやっちゃけど、鬼ちゃんには方言でからかわれた時に助けられたこともあって……。本当によか人よ」
目を細めながら、思い出し笑いするように伝える綾に一言。
「ふーん。それなら惚れるのも当然か」
「う、うるさいです」
「なにやら顔もイケてるらしいし」
「……」
「にひひ、センパイに向かって無視は肝座ってるじゃん」
ジト目を向けながら一生懸命交戦している綾とは裏腹に、胡座をかきながら楽しそうに白い歯を覗かせるセンパイがいる。
「まあ、それはそうとさー」
ここで場の空気と話の二つを変えるような一言を発するリナ。
「そんな人なら、なおさらもったいなく感じない?」
「も、もったいない?」
「上手く言葉にできないんだけど、もうちょっと日の目を浴びることができれば、この業界ももっと盛り上がるのに……って感じ?」
説明が難しいのだろう、首を傾けながら口の形を『︿』のようにしている。
「ぶっちゃけた話、鬼ちゃんってプロになれるような実力持ってない? チームを組んでるわけでもなければ、ゴースティングと戦いながら、ソロで最上位ランクになってるわけで」
「正直、火力は5本の指に入ってると思う」
「でしょ? あたしも配信見た感じそう思ってさ。
綾もリナもプロゲーミングチームに所属している選手である。
感じることに大きな相違はない。
ちなみにゴースティングとは配信しているプレイヤーと意図的に同じマッチに参加し、配信を見ながら自分に有利なゲーム展開を作る行為のこと。
当然、アイテムや居場所がバレているために配信者が不利な戦いを繰り広げることになるが、その状況すらも打開して配信しているのが鬼ちゃんである。
「まあソロでしてる分、連携力はまだ足りないだろうけど、それを補えるだけの火力を持ってるわけで——」
『煽り』というのは、それ相応の実力がなければ成立しないもの。
一つのエンタメとして成立させている鬼ちゃんは、プロゲーマーも一目置くほどの撃ち合い力をつけている。
「——魅せる力も十分あるわけだから、
『この業界を盛り上げる』
『この業界を盛り上げたい』
これはプロゲーマーならではの視点だろう。
「もっと言えばイイ性格してるからラインを守ってプレイするだろうし、みんなにもキャラ作りはバレてるし……。あー、考えれば考えるだけ居て欲しいピースじゃん」
配信者限定の大会は基本的に仲良しこよし。
もちろんこれでも十分楽しめる大会になるが、何回も試合が繰り返されればマンネリ化もしてくるもの。
この業界をより盛り上げるには、変化を加えていかなければならなかったりする。
ヘイト役を入れることで、より刺激的で雰囲気の変わった大会を見せることができるのは正しいだろう。
「鬼ちゃんがさ、配信者を煽ってる時にスナイパーで抜かれたりしたらめっちゃ盛り上がりそうじゃない?」
「あはは! それはそうやねっ」
「数ヶ月先のことだけど、ダメ元で運営さんに聞いてみよっかね」
リスクを取らないように立ち回る運営なのは百も承知している。交渉が通る確率は10%あるかないかだろうが、鬼ちゃんはチャンネル登録者数20万人を超えているコンテンツを築いている。
視聴者を呼べるだけの数字を持っていることもあり、聞く価値は十分にあるだろう。
「で、でも……鬼ちゃんとチームを組んでくれる人おるやろか……?」
「それはあたしと綾っちと鬼ちゃんの三人で組めばいいじゃん。オーナーは
「な、なるほど!」
綾は鬼ちゃんとは一緒に帰路を辿っているほどの仲である。嫌がる理由もない。
また火力担当その①と、火力担当その②で、サポート担当が一人。司令塔がいない脳筋チームになるが、それもまた一興と言えるだろう。
「って、待って!」
「どしたん?」
「うちがいろいろ教えたから、リナさん鬼ちゃんに興味持っとうやろ!!」
「安心しなって。取らないから」
「んんんんもお……!」
そんな声が響くリナの部屋だった。
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