第31話 チームメンバー

 時は過ぎ、平和な日常を過ごすある日のこと。


「はい綾っち。どーぞ」

「ありがとう! リナさん!」

「いやいや、このままだと捨てることになってから、来てくれてホント助かったよ。遠慮せずに食べちゃっていいかんね」

「うんっ!!」

 この日——。

 綾はプロゲーミングチーム、【Axcis clown】のチームメイト兼、チャンネル登録者数が60万人を超える『オタクに優しいギャル』ことリナの自宅に招待されていた。


 お呼ばれした理由は、今出された焼き菓子が理由。


「リナさんお菓子ばりもらっとるんやね……。本当……」

「配信でちょっと触れただけでコレでさぁ。賞味期限も短いのに、あたしの視聴者マジで容赦ないの」

 あでやかな金髪を触りながら、苦笑いを浮かべるリナは、ソファーに座って胡座あぐらをかく。


「ちなみに今履いてるドルフィンパンツも差し入れなんだけど、綾っち欲しい? ラッキーセブンだか知らないけど、7個も送られてきてさ」

「い、いや大丈夫! そげん丈の短いのはうち履けんもん」

「え? あたしとサイズが合わないってことなくない?」

「えっと……。なかなか言いづらいことやっちゃけど、うちはリナさんみたいに太ももがシュっとしとらんもん……」

 スカートを少し捲り上げ、ストッキングに包まれた太ももを軽く見せる綾。

 同性であり、気の知れた相手であるからこそ、恥ずかしさはなにもない。


「ほら、太いやろ……?」

「『ほら』って言われてもさ、それで太いとか言ってたら絶対反感買うよ? てか、男からすればそのくらいがベストサイズだって。その柔らかそうなくらいが」

「そ、そう……? じゃあいっぱい食べる」

「にひ、そうしてそうして」

 太ももを絞るようにしながら可愛いことを言う綾に対し、白い歯を見せて笑うリナ。

 本音で言っているからこそ、こうした言葉を引き出すことができる。


 また、配信者の中には安全上の理由でファンからの飲食物を受け取らない人物もいるが——手作り厳禁、生モノ厳禁、開封厳禁などのルールを定めている事務所でもあり、スタッフによる検閲けんえつもされているため、貰いものは安心と言えるのだ。


 そんな焼き菓子をぱくりと食べる綾は、美味しそうに口をもぐもぐさせた後、話しかける。


「ね、リナさん」

「ほい?」

「日曜日はABEXのカジュアル大会があると思うっちゃけど……調子どうです?」

「おっ! いいねえ。その言葉を待ってたっつってね?」

 と、ニヤリと笑うリナは言葉を続けた。


「最近はもうビーストモードっていうか覚醒しててさ、平均2500ダメージ出してる的な」

「えっ、そればりばり仕上がっとる……!!」

「そうなんだよねえ。綾っちも調子よさそうでなによりじゃん」

「もしかして朝の配信見てくれてたと!?」

「まあねえ」

 最近は一緒にプレイする機会も減っていたのだ。そんな中でも簡単に情報を仕入れることができる術がコレ。


「ちょうど料理作るところだったから、一時間くらいながらで見てたかな。終盤戦の見どころ凄かったじゃん」

「それ2戦目やろう!? あともうちょっとでチャンピオンだったシーン!」

「そうそう。まああれは味方を先に削られたのが痛かったね。数押しされたって感じ」

「んー。それでもうちがあと少したまを当てられてたら……。あー、思い出したら悔しくなってきた!」

「にひひ、その様子ならあたしの火力担当は安心だ」


 味方のミスを責めるよりも自分の反省しているところ。

 負けず嫌いなところ。

 これはゲームが上手くなるために必要なことだろう。

 そんな姿を見るリナは、目を細めるように微笑むのだ。


「あとはご多忙なオーナーだけど、まあ千夜ちよさんのことだから大会までには完璧に仕上げてるか」

「そうだと思う!」

 これが複数のスポンサーが就いているAxiz clownのABEXチーム。


 火力担当、18歳の綾。

 カバー兼サポート担当、22歳のリナ。

 リーダーとなる司令塔、プロゲーミングチーム、オーナー。24歳の千夜ちよ


 全員が女性で構成された珍しいチームだが、相性補完がよく、今年一番勢いのあるチームと噂されているほど。


「いちお、金曜日と土曜の21時からチーム練だから忘れないようにね、綾っち」

「うんっ」

 カジュアルな大会だが、参加メンバーは名の知れた猛者もさばかり。

 大会に向けての練習はどのチームも入念に行うのだ。

 それがチームを応援してくれる視聴者への恩返しにもなるのだから。


「総合トップ3にはなりたいところだけど、Zestゼスト Divisionディビジョンやらなんやら重鎮多いし、厳しい戦いになりそうだねえ」

「で、でも積極的に戦闘ファイトした方がいいと思う!」

「こりゃあこれは大変なカバーになりそうで」


 作戦や立ち回りはメンバー全員で相談して決まることだが、爪痕を残すことが大好きな司令塔、オーナーの千夜である。

『あら、素敵な作戦じゃないの』なんて言われることだろう。

 

「まあ悔いのないように頑張ろっか」

「おー!」

 お互いに”楽しみ”を隠しきれない表情でグータッチを交わす二人である。


 だが、このにこやかな空気はすぐに変わることになる。

 

「それで話は変わるんだけど——イケメンらしい煽りの鬼ちゃんとなにか進展はあったのかい?」

「っ!?」

「綾っちめちゃくちゃ隠すからずっと気になっててさー。そのお菓子食べたお返しに先っちょだけ教えてくれてもいいんじゃないかね?」

 舌舐めずりをしながら、ニヤニヤ口を開くリナがいることで。

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