第24話 Side、Ayayaと〇〇

「ナイス綾っち! そのカバーは神!!」

「リナさんこそナイスアシスト!」

 この会話が交わされていたのは、

『俺は家族に嫌われているのだろうか。経緯。俺のいないところではクソ兄貴って言ってるらしい』なんて鬼ちゃんが投稿する前のこと。


 綾もといAyayaは、プロゲーミングチームAxcis crownのメンバー、リナと一緒にABEXをプレイ中。

 漁夫を狙った敵の攻撃。その危機を乗り越えたこのチームは、そのままチャンピオンロードを走り、無事に優勝を勝ち取っていた。

 そんな二人はホーム画面に戻り、普段通り仲良く会話を続けるのだ。


「さてと、今日の調子を確認できたところで同時配信しちゃおっか? 休日だからたくさん人も来てくれると思うしさっ」

「OK! よかよ〜!」

 美人な顔を出し、コミュニケーション力が長けていることに加え、高い頻度で配信しているリナは、60万人のチャンネル登録者を誇る22歳である。

『オタクに優しいギャルさん』なんて呼び名もある彼女を知らないABEXプレイヤーはごく僅かだろう。

 そんなリナと一緒に今日は配信の約束をしていた綾だった。


「あ、配信の前に! チャンネル登録者数35万人おめでと、綾っち。最近メキメキ伸びてるじゃん!!」

「ありがとう! 最近は停滞気味やったっちゃけど、鬼ちゃんとコラボして5万人も増えたとよ!」

「あー。シスコンの鬼ちゃんかぁ。あの人の人気、最近ヤバいよね。毎回Twittoツイットのトレンドに上がってるし、一週間で約10万人も登録者増えてるっしょ?」

「えっ!? そんなにっ!?」

「うんうん。マ、あの放送事故はインパクトあったしね。キャラ崩壊もしちゃってたし」

 ゲーミングチェアの上であぐらをかくリナは、クスクスと笑いながら金の髪を揺らす。

 そして、彼と関わりのある綾にこんな言葉を投げかけるのだ。


「でもさ、鬼ちゃんってホント賢いよね。放送事故後の対応も100点満点だし、それから後の燃料投下するタイミングもウマすぎだし」

「ウマすぎ……?」

「あれ、綾っちは裏で聞いてるって思ってたんだけど……今までの流れって最初から鬼ちゃんが考えてたシナリオじゃないの? じゃなきゃ、トレンドに上がるような立ち回りはすぐ取れないだろうし、今のような勝算があったから煽りのスタンスを選んでたんだ、って考えてたんだけど。つまり、鬼ちゃんは最初から煽りキャラには見切りをつけてて、キャラ変更は予め決めてたって予想してるわけ」

「ううん。それは違うよ……? 鬼ちゃんは煽りキャラに戻ろうと今も必死に頑張っちょるもん」


「へっ? 煽りキャラに戻れないようなネタを自分から出してるのに、まだ煽りキャラ続けようとしてんの!?」

「う、うん。鬼ちゃんってばり抜けちょるけん、元に戻ろうと一生懸命頑張った結果がそれやとよ」

 嫌味を含んだ『ばり抜けちょる』ではない。微笑ましく思いながら口にしている綾である。


「え、待って。それじゃあ賢いわけでも、最初から考えてたわけでもなくて、ただただ自爆し続けてるだけってこと?」

「ふふ、そうやね」

「いやいや、ええ……。いくらなんでもポンコツすぎるでしょ……」

 鬼ちゃんのことを打算的で賢い配信者だと感心していたリナは、『考えてたことと全然違うじゃん……』と頭を抱える。

 全ての頑張りが裏目に出ている鬼ちゃんなのだ。当然の意見である。


「って、それなら絶対大変だったっしょ。そんなに不器用なのに、煽りキャラを作ってたんだし」

「多分やけど、煽りの台本をみっちり書いてたんじゃないかなぁ……。あとはイメージトレーニングも」

「な、なんか誰も知らないところで尋常じゃない努力してるじゃんそれ」

「鬼ちゃんは本当に凄い人よ。妹さんの学費を貯めるために誰よりも頑張っちょるもん。お仕事も週6でして生活費も稼いで……」

 大学に通いながら、配信で学費と生活費を稼いでいる綾だからわかるのだ。同じような境遇で家族まで支えている鬼ちゃんは本当に凄いことをしていると。


「言葉にしてわかったけど、妹ちゃんのためにここまで頑張れるってめっちゃカッコいい中身してんね」

「ぁ、鬼ちゃんは中身だけじゃなくて、容姿もばりカッコいいとよ……? 身長も高くて、他にもその……」

 好きな人……。いや、気になっている人のことは自慢したくなる。

 その想いが前に出てしまったように、頬を赤らめながら口にする綾。


「え、えっと、つまり綾っちは鬼ちゃんのことが好きなんだ? いや、デキてる? ……マ、めっちゃ嬉しそうに話すし、めっちゃ褒めるからそんな気はしてたけど」

「なっ、なななななんでそげな風になると!?」

「だって綾っち言ってたじゃん。『オフ会は好きな人としかせん!』って。鬼ちゃんの顔を知ってるってことは100%そうじゃん」

「それは違うっちゃん! 鬼ちゃんとは偶然会ったとよっ!! オフ会をしたわけじゃないけん!!」

 残念ながら焦れば焦るだけ、弁明すれば弁明するだけ信憑性は増していく。

 リナの中ではもう確定的なものになっていく。


「大丈夫だって、綾っち。こんな派手な見た目してるあたしだけど、口はめっちゃ硬いし、Axcis crownは別に恋愛禁止でもないし、綾っちの年なら一般的に彼氏作ってズッコンバッコンしてるだろうし、別に不思議なことじゃないからさ」

「……っ!!」

 予想もしなかったパワーワード。及び耐性のない下ネタ。

 そんなこと一度もしたことない綾は、顔を真っ赤にして言葉を詰まらせる。

 これもまた、信憑性を高めてしまう要素。


 そして——。

「あ……。もしかしてこっちに引っ越した一番の理由って、リアルで鬼ちゃんに会うためとか!?」

「だ、大学に決まっちょるりゃろ!!」

 最後は大きな声で盛大に噛んでしまった綾。


 たくさんの信憑性を与えてしまった結果、誤解を解くのに10分も20分もかけてしまうのだった。

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