第14話 愛され鬼ちゃん
「は、はあぁ!? な、なんだこれ……。終わった。いや、これは本当に終わってるやつだって……」
綾とのゲームを終えた後のこと。
いつも通りにバイトに出かけた春斗は、一時間の休憩中、絶望の声を漏らしながら頭を抱えていた。
もう何度目だろうか。
「もう……死んだ。最近やることなすこと全部裏目に出てるって……。それは誰にも言わないって言ってくれたじゃん……。俺信じたのに……」
顔面にパンチを入れられたようにノックアウトした春斗は、ふにゃふにゃになった体を背もたれに預け、視線だけを動かしてスマホに向ける。
「ああ……。最悪だ。エンターテインメントのトレンドにも入ってるし……。こんなのみんな見ちゃうじゃん……」
夕方の時間帯。トレンドに載っているのは、『お
この間にも通知はポンポンポンポンと溜まっていく。
ポチっと通知欄を押せば、配信者をオモチャにしたリアルタイムのコメントが目に入る。
『よおシスコン! 元気か!?』
「元気じゃないよ……」
『鬼ちゃん! 妹可愛い!?』
「当たり前のこと聞くなよ……」
『んんんぉぉおおおお! お
「あなたはうるさいよ……」
『シスコンの鬼チャンネルに名前変えようぜ!』
「あなたもうるさいよ……」
ツッコミが苦手の鬼ちゃんだが、これに関してはスラスラと言葉が出てくる。
「なんでこんなことに……。本当なんでこんなことに……。放送事故の方がマシだったって意味わからないって……」
放送事故の代償は、ビジネス煽りがバレてしまったこと。
しかし、今回の事故は大切な人をネットに拡散されているようなもの。これは耐えられるものではない。
そして、今回の拡散は今まで以上に酷いもの。
『これ誰にも言うなよ……。このアカウント、『お芋』と『お妹』を掛けて作った名前なんだよ』の動画の最後に入れ込まれた——。
『俺はアンチからどんな攻撃されても効かねえよ。俺自身、攻撃される覚悟を持ってやってんだから』なんてセリフのせいで。
「あの視聴者さんは機転の
いつ口にしたのかもわからないセリフは、今回の起爆剤になっていた。
勝手にエコーが入れられていることで煽っているような名言になっているせいで、動画を見たユーザーの大半はこう思うのだ。
『ほう? 効かないならとことんやってやるよ!』と。
「よし……。そっちがその考えなら俺だって……」
鬼ちゃんは学習していなかった。こんな時は変に触れない方が沈静化することに。
だが、こんな性格だからこそ、意に反して可愛がられるのだ……。
『おいおい荒らすな荒らすな! あとトレンド入りさせるために同じ文字打つな! もう一つ、お妹の動画だけはもう拡散するな! 大切な人をバラされるの恥ずかしいだろ! 攻撃するならもっともっと別の方向で攻撃しろ。それならなにも言わんから』
この流れを傍観するユーザーはみんな思っているだろう。
『あーあ……。また燃料投下された』
『どうしてそんなバカなことしちゃうんだ』と。
当然、こんなツイートをすれば飛んでくる。
『いwやwだw』
『効かないのは嘘だったのか!?』
『いつも人を煽ってたから……』
『これが世に聞く因果応報か』
当たり前の返信が……。
一瞬で通知の増え幅が大きくなっていき……「あ、マズい」なんて声を春斗が漏らしたその時だった。
『春斗さん、今日のバイトは何時に終わると?』
ABEXをする約束をした日、連絡先を交換した綾からこんなメールが届いたのだ。
休憩時間を把握してのメールだろう。
春斗はすぐにLAINに切り替え、返信を打っていく。
『今日は早上がりで21時に終わる予定だよ。なにか用事でもあった?』
『う、うん。春斗さんのお仕事終わりに、ちょっとお時間をもらえたらなって思ってて』
「……」
珍しいというよりも初めてのお願いに、目を大きくしながらやり取りを続ける。
『そのくらいなら全然大丈夫だよ』
『本当っ!? ありがと! じゃあ21時にはお店の方に着くようにするけん』
『え? 白雪さんって今日大学休みだよね? わざわざ外に出るのも大変だろうし、電話で大丈夫だよ』
『うちこそ大丈夫。今日の件のお話やけん、やっぱり会って話したいとよ』
『ああ、なるほど』
視聴者が内緒にするとは言っていたものの、今回の件はお互いの配信に関わること。
電話で軽く話すような内容ではない。
『それに、鬼ちゃん今大変なことになっちょるやろ?』
「…………」
この内容を見て3秒ほど手の動きを止めた春斗は、再び文字を並べていく。
『大変なことって? 別になにも起きてないよ』
『嘘つき。春斗さんは本当に優しいね?』
『なんのことだか。本当になにも知らないよ』
『なら、会いに行った時にたくさん教えるけん覚悟しときー?』
『あ、いや、それはやめて。お願いだから』
『ふふ、はーい』
やけに聞き分けがいいのは、確信したからだろう。気を遣って『なにもない』としらばっくれていたことを。
『それじゃあ、残りのお仕事頑張ってね。うちは今から配信頑張る!!』
『ありがとう。なら休憩が終わるまでAyayaさんの配信にお邪魔させてもらうよ」
『え、ええ。なんか変に意識しちゃうけん見らんでよ』
『あはは、なんだそれ』
そうしてメールを終わらせた春斗は、休憩時間が終わるまでAyayaの配信を見て過ごすのだった。
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