第9話 偶然?

『勘違いせんでよ! これはうちの話じゃなくて友達の話ったい! 友達の話で普通のアドバイスしかできんかったけん困っとーと!』

 そんなメッセージを送ったAyayaは、間髪を入れずに聞いてくる。


『ね? どうすればいいやろ?』

『どうすればいいもなにも、まだ情報教えてもらってないんだけど……』

『あっ! そうやったそうやった』

 配信している時と同じような勢いのメール。


「ほ、本当凄いなAyayaさん……。配信者らしいと言えばらしいけど、この距離の詰め方は誰にでも出来ることじゃないよな」

 彼女は配信一本でチャンネルを運営している人物。そして、たったの一年でチャンネル登録者を30万人にまでし上げた女性配信者でもある。

 こうして深く接していくことで、人気になった秘訣が少しずつわかってくる春斗。


『その前にさ、どうして俺を相談相手に選んだの? 相談に乗るなんて言ってないのにこの流れになってるけれども』

『えっと、仮によ! 仮に友達の話じゃなくても鬼ちゃんなら言いふらしたりできんやろ? うちも鬼ちゃんの裏をこうして知っちょるけん』

『なるほど』

 鬼ちゃんは相談にも乗るような人! なんてバラされたのなら痛手である。

 拡散されないための抑止力をこちらも持っているから、なんて理由なのだろう。

 ただ勢いに任せているだけかと思えば、しっかりと考えた上で行われていた。


「まあ、一番安全なのはリアルで誰かに相談することだろうけど、誰も頼ってないのかな……? Ayayaさん友達多そうだけど」

 この業界においてプライベートを詮索するのはNGだ。

 疑問は独り言にするだけで聞いたりはしない。


『じゃあ本題に移るけど、Ayayaさんのお友達はどの人が気になってるの?』

『あのね! カフェの店員さんをしちょっちゃけど、ばり大人っぽくて優しいと! あ、聞いた話やけん実際にうちは知らんよ!』

『おおー』

 同じ職場だ……。なんて思いながら相槌の返信を打つ。


『で、その友達、とある事情で県外に引っ越したっちゃん。それで、うちと同じで方言があるけん、いつも周りからからかわれてる状態やとよね』

『うん』

『で、そんな日々を過ごしちょった中、その人が働いてるカフェに入って注文してた時、うっかり方言が出てしまったっちゃん』

『もしかして?』

『そう! そうしたら後ろのお客さんが3人コソコソし始めて、笑って、田舎くさいとか聞こえるように言って……』

「ん?」

 ここでふと違和感を覚える春斗。


『それをね! お兄さんが堂々とした態度で注意してくれたと!! ばりカッコいいやろ!? もう好いとーてたまらんらしい!』

『へ、へえ』

 違和感はどんどんと深くなる。

「あ、あれ……。な、なんかそれ……。で、でも気のせいか……うん」

 春斗も同じようなことがあったのだ。いや、春斗も同じ注意をしたことがあるのだ。


『その他にも、優しく構ってくれるっちゃん。下手やけんが一生懸命動物の絵を描いたり、嬉しくなるメッセージを書いてくれたり、面倒見もいいやろ!?』

『お、おおー』

 そんな返信をしつつ、春斗は頭を掻いて眉間にシワを寄せる。

「下手な絵って……。な、なんだろ。このシンクロ感って言うか……」

 話を聞けば聞くほど、浮かぶ人物がいる。

 ボブのかかったミルクティー色の髪。色白の肌にピンクの瞳。

 小柄な女の子、大学一年生の白雪綾が。


『一応確認なんだけど、そのカフェの店員さんに彼女はいないんだよね?』

『あ』

 ポンと一文字の返信。

『あ?』

『わ、わからん! って、聞いちょらんかった!! 友達もその人に聞いちょらんわ!!』

『いやいやいや、それは確認しなきゃ』

『ど、どうやって確認すると!? 彼女いますかって聞いたらバレるやん!』

『そんなストレートに聞くんじゃなくって、話の流れでなんとなく……』

 こればかりは当たり障りのないことを返すしかない。


『あっ、でも友達はその店員さんとABEXする約束をしたとよ! もし彼女がいるなら、そんな約束はせんっちゃない!?』

『ABEX?』

『ん! ABEX』

『ランク帯は合ってるの……?』

『お互いプラチナ!』

「……」

 この返事を見た瞬間、春斗はスマホを手離す。

 口元に手を当て、言葉にならない感情を抱きながら天井を見上げるのだ。


「本当に偶然にしては出来すぎてない? 本当……」

 モヤモヤとした気持ちのまま、再度スマホを手に取る。


『でも、その店員さん絶対に驚くったい!』

『どうして?』

『うちの友達、メイン垢は最上位プレデターやけん!』

『えっ、プレデターなの!?』

『実力で例えるならうちと全く同じよ?』

『それもうプロじゃん』

 Ayayaは当たり前に気づけない。気づけないからこそ、たくさんの情報を与えている。しかし、鬼ちゃんである春斗は違うのだ。

 春斗だけは一つの可能性を考えられているのだ。


 あの白雪綾が、『Ac_Ayaya』の友達だという可能性を。


「いや、マジか……。これ、簡単に判断つくかも……」

 なんせ春斗もプレデターで戦っている最上位プレイヤーなのだ。キャラのコントロール、立ち回りキル数やダメージ数を見ればどれだけの実力者なのか測ることができるのだから。


『Ayayaさん、一つだけいい?』

『なにー?』

『その友達、店員さんといつABEXするの?』

『明後日やんね!』

『そ、そっか』


 この明後日は——白雪綾と約束した日と同じだった。

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