第3話 Side、Ayaya
「ぷっ、あははっ、みんな見て! まさかの鬼ちゃん出てきたっちゃけど、これ本物!? 本物ならばり心強くない?」
味方が表示される画面を見て、プロゲーマー兼VtuberのAyayaは3200人いる視聴者の誰よりも反応した。
生まれながらの方言を出し、それはもう楽しそうな笑顔を配信に載せていた。
『さすがに偽物じゃね?』
『でも最上位ランクだから可能性ありそう』
『本物っぽい。IDが同じ』
『弁明配信やめてすぐゲーム始めたのかアイツ(笑)』
まさかのゲストに盛り上がるコメント欄。
以前の鬼ちゃんならば、このように歓迎されることはなかっただろう。アンチのコメントが増えていただろう。
だが、あの放送事故をキッカケに鬼ちゃんの家庭環境や、煽る理由を知る人が増えたのだ。
今ではネタキャラのような人物に変わり、配信者のAyayaもこの話題に便乗する。
「あ、うちもちゃんと見たよ。鬼ちゃんの放送事故。いいお兄ちゃんが滲み出ちょったね」
『そこ触れなくていい!(笑)』
『これはもうアイツに煽られるコースやな……』
『やべ、ワクワクしてきた。チャンピョン取ってくれ』
『鬼ちゃんと喋ってほしいなぁ』
コメント欄と一緒に楽しむAyayaだが、ここで頓狂な声を出す。
「あれっ? 鬼ちゃんって確か前線を上げるオクタン使っとーよね。今回防御のジブ選んどるよ」
このゲームはキャラそれぞれに能力があり、チームで同じキャラを使用することができない仕様になっている。
つまり、チーム内での早い者勝ち、もしくは譲り合いによってキャラを選択するようになっている。
そして、『なぜ別のキャラを選んだのか』この疑問にいち早く答える視聴者がいた。
『Ayayaのメインキャラがオクタンだからじゃない?』
『ジブでサポートして取れ高に貢献しようとしてるとか。あの鬼ちゃんだし』
そのコメントをすぐに拾うAyayaは納得した声を上げる。
「あーね! みんなはどう思う? なんかうちに気を遣ってくれたっぽくない?」
『同意見(笑)』
『リアルお兄ちゃんだから、譲る精神がついてそう』
『兄って基本そんな感じやわ』
『それな』
Ayayaの促しに対し、コメントの多くが賛同していた。
中には『譲ったわけじゃなくて気分じゃね』なんて否定を示すものもあるが、かなりの少数派。
Ayayaは少数派の意見に左右されずに、思い出し笑いをしながら言うのだ。
「あの事故で優しいお兄ちゃん見せちょったけんね、この鬼ちゃん」
と、ここでキャラの選択時間が終わる。
ゲーム内の音楽が切り替わると、Ayayaはプロゲーマーらしく、集中のスイッチを入れたように声色を少し変化させるのだ。
「さて、最初は激戦区避けちゃおっか」
3、2、1、0のカウントダウンでマッチの開始。プレイヤー全員が乗る飛行機が大きなマップを一直線に進む中、降りる位置をマークし、意思疎通を図って味方と一緒に飛び出す。
その
「ね、みんなも見ちょって。これが本物の鬼ちゃんなら、アレをするはずやけん」
付近に敵はいなかった。つまり、安心安全なところで物資を漁れるということ。
鬼ちゃんも同じような索敵能力があり、この状況にきづいているのなら、きっとするはずなのだ……と。
そのフラグを立て、味方と共に地上に着地した瞬間。鬼ちゃんは期待通りのことを行ったのだ。
その場から移動せず、Ayayaに体を向けると、『どもども』と伝えるように超素早い屈伸運動を。
「あはっ、これ本物やね!!」
煽り慣れているからこそ出来る芸当。
そして——。
「痛っ!! ……ちょ」
『バシン』と鈍い音がスピーカーから響く。
『本物に決まってるだろ』と言うようにAyayaが使用する紫スキンのオクタンを殴った鬼ちゃんは、逃げ去るようにそそくさと物資を漁りにいった。
「ね、みんなも見たよね? 鬼ちゃんうちのこと本気で殴ってきたっちゃけど。味方なのに酷くない!?」
味方から殴られてもダメージはない。しかし、迷惑行為には違いないこと。
『マジで最低なことするなー(棒)』
『本当キャラ作り頑張ってるね、鬼ちゃん……』
『許してあげて!』
『Ayayaも楽しんでんじゃん(笑)』
図星である。
「ぷっ、あははっ。もー集中できんー!」
鬼ちゃんの背景を全員が知っているからこそ、面白いものに変わってしまう。
ツボに入って未だ笑っているAyayaに、鬼ちゃんから怒りのゲームメッセージが届く。
『
「ひー。あははっ、もうダメ。お腹痛いー!」
強い口調であるにも拘らず、最後はさん付けの内容。
コメント欄も『w』の嵐である。
「で、でもそだね。早く漁らないと敵がくるけんね」
そうして笑いを堪えながら、Ayayaは建物の中に入って物資を漁っていく。
視聴者を飽きさせないように、目に止まったコメントを読みながら。
『Ayayaって鬼ちゃんと仲良いの? なんか初対面には見えない……』
「あー。鬼ちゃんとは配信外で味方になったことがあるっちゃん。フレンドさんよ。あ、でもその時の鬼ちゃん普通にプレイしちょったよ。それに、『この名前ですので、録画をされていたり等でご迷惑をおかけしていましたらすみません』ってわざわざメールもくれたったい」
『マジか!』
『それ鬼ちゃんの裏の顔やん(笑)』
『堂々と営業妨害していくねえ』
『鬼ちゃんに殴られたからその腹いせやなあ』
「あ、今のなし! 営業妨害やんね!?」
『もう遅いわ!』
『もうそれ言ったら事実ってわかっちゃうんよ……』
『なんか鬼ちゃんと似てる気がする(笑)』
『確かに』
コメントの指摘に焦るAyayaは、次なる話題をすぐに拾って尾を引かないようにする。
『Ayayaさん! 鬼ちゃんと絡みがあるなら喋ってほしいです!』
「んー。それは難しい……な? 配信の邪魔にならないようにお互い干渉しないように! みたいなルールがあるけん」
そう意見をするAyayaにコメント欄は大きく動いていく。
『鬼ちゃんは配信してない!』
『あっちは配信してないぞ!』
『マジで!? これはもしかして……』
『突然のコラボ!?』
知らない情報はこのようにして得られる。
「あ、鬼ちゃん配信してないと!? じゃあ……みんながいいなら許可取ってみる?」
結果、『いい』が8割を超えることになり、Ayayaはメッセージで伝えるのだ。
『鬼ちゃん今
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