(3)
「何で判ったッ⁉」
「師匠こそ、何で逃げたんですかッ⁉」
元弟子の吾朗をアパートに泊めた翌朝、奴が目を覚まさない内に関門海峡を渡って、門司港のおしゃれな……つまり、俺みて〜なムサいおっちゃんが居ると異様に目立つカフェで朝食を食ってると、またしても、吾朗が現われた。
「そもそも、お前も、何で俺に会いに来た?」
「師匠に頼みたい仕事が有って……」
「嫌だ……嫌だ……。どうせ、あそこでやる仕事だろ。あそこには行きたくない。絶対、絶対、絶対、絶対、絶対にだッ‼」
「ええ、お察しの通りですけど……何で、あそこを嫌うんですかッ⁉」
「もう2度と『東京』は御免だ」
そうだ……俺が「魔法」への「信仰」と共に、「力」を失ない始めた日……あの日を思い出すような場所には行きたくない。
「ずっと、あそこに住めって言ってる訳じゃないっすよ。それに、師匠、昨日までの職場を馘になってるでしょ」
「あ……」
「調べてみましたけど、師匠、あくまで『一時雇い』が3年ぐらい続いただけですよね?」
「どうやって、調べた?」
「師匠の職場の奴らに、ちょっと……」
「あのな……『精神操作』系の魔法や能力は、催眠モノのエロ・コンテンツとは違うんだ。ヘボなプログラマーが作ったアプリみて〜に『かけた通りに動く』けど『思った通りに動く』とは限んね〜んだぞ。
「お小言は後でゆっくり聞きますよ。でも、早い話が、師匠、失業したけど、失業保険は出ないんでしょ?」
「……う……うん……」
「しかも、馘の理由が、師匠のミスで怪我人を大量発生させた事でしょ」
「あ……ああ……」
「挙句に、あの会社、ヤクザのフロント企業の可能性有りますよ」
「お……おい、冗談キツい……」
吾朗は呆れた顔になり……そして……。
「気付いてなかったんですか? あの会社の今の社長、先代社長の婿養子ですよね」
「そう聞いてるけど……」
「その社長のしゃべり方、良く聞くと、福岡の……それも久留米あたりの方言ですよね?」
「そ……それが……?」
「調べてみたら、奴は何度か名前を変えてて……出生地は久留米の田主丸、生まれた時の名字は『行徳』です。久留米のヤクザの『安徳グループ』の組長の家系の名字ですよ」
嘘だろ……。
久留米の安徳グループは……表向きは、ここ二〇年ほどで急成長した「金になるなら何でもやる」ような企業グループだが、裏では「九州3大『河童』系暴力団」の1つ……その中でも最強の「組」と噂されている……。
冗談じゃない……地獄の入口は……俺の足下に開いてて……そこに落ちなかったのは単に偶然だったのか?
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