88歳の色

於田縫紀

88歳の色

「さて問題、88歳のお祝いに服を贈りました。その服は何色でしょう」


 奴が何やら本を見ながらしょうもない質問をしてきた。

 勿論俺様にかかればそんなたわいも無い問題、瞬殺だ。


「ベージュ色。88歳の長寿祝いは通称『米寿べいじゅ』、八十八という文字を並べると米という文字になることから」


「むむむ」


 漫画の吹き出しでも使わないような台詞をはっきり発音して、そして奴は続ける。


「なら同じく99歳の色は?」


「白だな。白寿はくじゅと言って百という感じから一を取ると白という文字になる事から」


「60歳は?」


「素直に還暦祝いで赤色ちゃんちゃんこだろう……」


「むう……」


 もう同じようなネタは無いだろう。

 そう思いながら俺は奴の次の台詞を待つ。


「ならいっそ八百比丘尼やおびくには?」


 随分大きく出たな、奴め。

 しかしそれもデータにある。


八百比丘尼やおびくに通称白比丘尼しらびくにとも呼ばれていたらしい。つまり白だ。違うか?」


「なら99歳から800歳まではずっと白なのか?」


 ちょっと待ってくれ。

 それは思考が飛躍しすぎだ。


「データが存在しない。そもそも人間がそんな年齢まで生きる事は無い。八百比丘尼やおびくにの八百というのも実際に100、200と数えるわけではない。非常に大きいという程度の意味だ。八百屋やおやとか八百万やおよろずとかと同じだと思って欲しい」


 奴はまた考え込む。

 しかし下手な考えなんとやらという奴だ。


「考えても無駄だろう」


「いや、八百屋やおやとは何なんだ」


 おっと、そこからか。

 仕方ない、説明するか。


「八百屋とは野菜等、植物系の生鮮食料品を主に販売している店の事だ。つまり……」


 ◇◇◇


 僕はため息をついた。

 やはり異星文明について理解する事は難しい、そう実感したからだ。


 この文明は比較的残存資料が残っていた。

 更に技術班の努力により人工知能も起動されて対話が可能。

 だから詳細の解明も難しくない、そう思っていたのだったが……


 疲れた僕は人工知能との対話を中断。

 もう一度大きくため息をつく。


 もっと簡単な文明を対象にすればよかった。

 ヘドラ星系プシシマル第4惑星の古代ナマリタラ文明とか。

 そう思ってももう遅い。


 何とか明後日までにある程度情報をまとめ、レポートにしなければならない。

 そうしないと必須科目である『異文明色彩学』は落第だ。


 しかたない、対話を続けるか。

 僕は発掘された『おもしろなぞなぞ大百科』の翻訳データを画面に表示し直す。

 さて、次に色に関係する項目は……あったあた。


「それじゃ次の質問だ……」

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