いただきます

「やっぱり、うどんだ」

 コシが強い。顎が鍛えられるといったら大げさだが、かなり噛みごたえがある。

 すぐにこれはフォークではなく、箸で食べたほうがいいと気付いた。とにかく、麺が太いのだ。

 箸を二膳、取ってきた。箸置きのある生活に憧れるが、さすがにそこまでは手が届かない。

「これ、箸のほうが食べやすいよ。はい」

「ありがと。ねぇ、これ、ナポリタンのスパゲッティをうどんにしたってことなのかな?」

「それだけじゃないみたいね。普通のナポリタンよりも少し濃い味付けにしている感じがする」

「つけ麺やラーメンもそうだけど、濃い味には太麺じゃないと駄目なんだよ」

 ラーメンには言いたいことが山ほどある優は得意そうに言った。

「逆かも。細いスパゲッティじゃなくて、太いうどんだから、味を濃くした。どうしても、うどんの表面にしかソースがからまないから、薄い味つけだと物足りなく感じちゃうのかも」

「それはあるかも。つけ麺の店でも……」

 つけ麺という言葉であたしは気付いた。

「これ、武蔵野うどんなんだよ」

「なに、それ?」

「普通のうどんって、丼にスープと麺が一緒に入っているじゃない。ラーメンみたいに」

 小さく優はうなづく。

「武蔵野うどんはさ、ざるに盛った太いうどんを、つけ麺のようにつけ汁にくぐらせて食べる。まぁ名称や定義には諸説ありそうではあるけど」

「なんで武蔵野ってついているの?」

「武蔵野地域の郷土料理だからじゃないかな」

「どのへん?」

「所沢あたりじゃなかったかな」

 自信はない。

「ごめん、さっきなにか言いかけたよね」

「なんだっけ、ああそう。自家製の極太麺で小麦の味を楽しんでもらいたいつけ麺の店は、スープも濃いんだよ」

 そうだ、この甘みはケチャップだけではない。小麦の味わいだ。

「うん、確かに濃いめの味付けのせいか、スパゲッティより小麦の風味を感じる。鈴木さんのところは違うけど、ナポリタンってケチャップを食べている感じになりがちだよね」

「あれはあれでいいんだけど。あのB級さというか、チープさが」

 おおいにうなづける。大人になって失くした味覚が刺激される感じがたまらないのだ。

「ボロネーゼは?」

 あたしが訊ねると、優はニヤリと笑った。

「食べてみなよ、面白いから」

 料理に対して「面白い」とはまた変わった感想だ。不思議に思いながらも、あたしは茶色くないボロネーゼを口に運ぶ。

 ある料理が脳裏に浮かんだ。

「これって、アレだよね? せーので言ってみようよ」

「うん」

「せーの」

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