似ている両者の似てないところ
アカニシンノカイ
おかえり
コロナのせいで、あたしたちの間には新しいルールができた。
病院で事務をやっているあたしとしては、医療関係者のことを考えると外食は絶対にノーだ。
コロナ禍でバーマンを辞めた優には、時短要請や営業自粛に振り回されている人たちをなんとか支えたいという気持ちがある。
あたしには病院関係の、優には飲食店関連の友だちがいる。お互い、友人を助けたいのだ。
そこでできたのが「鈴木さんの店での週一回のテイクアウトだけオーケー」というルールだ。
「どう、誰かいた?」
黒いビニール袋を抱えて戻ってきた優に訊ねる。
「一人もいなかったよ。紗希さんもいなかったし」
紗希さんは昼間、派遣で事務員をしている。金曜と土曜の夜だけのバイトだ。
「それって、辞めちゃったってこと?」
「明日はいるって。詮索するみたいで嫌だったから訊かなかったけれど、人件費削るために出勤が減った感じだろうね」
「鈴木さんは今までどおりでいいよって言ったんだろうけど、紗希さんが気を利かしたんだろうね」
「たぶんね。暗い話はよそう、食べようよ」
優は右手で高々と袋を掲げた。
今日はカレーではなくパスタだから、多少、容器が傾いても大惨事にはならないがやめてほしい。この手の配慮の足りなさがいつまでたっても少しだけ許せない。
袋から容器を取り出そうとする優の手が止まった。
「なんだ、これ?」
あたしも近づいて覗き込む。さっきの変な声の理由はすぐにわかった。
「今日はナポリタンとボロネーゼだったよね?」
毎回、二種類違うものを頼んで、二人でわけて食べるのが恒例だった。
「そのはずだし、ちゃんと頼んだんだけど、これ……」
「ナポリタンにしては太すぎるよね」
「うん。そしてボロネーゼなのに茶色くない」
「とにかく、温め直してみようよ」
電子レンジでチンしたものをお皿に盛り直す。
洗い物を増やすだけだと優はプラスチックの容器のままでいいという。けれども、あたしは許せない。
料理は見た目も大事なのだ。
「このボロネーゼさ、なんか匂いも違うよね」
レンジの扉を開けた瞬間、あたしもそう感じた。間違いなくどこかで嗅いだことがあるのだが、なんの匂いかわからない。
「ナポリタンは色はちゃんとケチャップ色なんだけど、太さが……これ、スパゲッティというより……」
ここで優はあたしを見たから、続きを引き取ることにした。
「うどんだよね」
とにかく、食べてみようということになった。まず、あたしはナポリタンに取りかかる。
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