新政策(88歳)

しょうわな人

第1話 特別養護老人ホーム

 2022年、某県某市にある老人ホームで、一人の老人が金色のチャンチャンコを着て、米寿のお祝いを受けていた。


「八十八歳、おめでとうございます!」

金式かねしきさん、元気に米寿を迎えられましたねー」

「まだまだこれからも元気で居なくちゃねー」


 世話をしてくれる介護士達が口々にお祝いを述べるなかで、当の本人は不思議そうな顔をして首を傾げている。


「あら、どうしたの? 金式かねしきさん」


 介護士の一人がその様子に気がついてそう問いかけた。


保子やすこさんや、ワシは昨日、古希70歳を祝って貰わんかったかのー?」


 そう言う老人に介護士は笑いながら返事をした。


「やだー、金式かねしきさん、十八年も前ですよー、古希のお祝いをしたのは」


 その返事を聞いても老人は、そうだったかのーと不思議そうにしている。

 だが、介護士達が口々に


「さあさあ、米寿のお祝いなんですから、笑顔でお願いしますよ」


 と声をかけると、老人も納得したかのような笑顔を見せた。





 その様子をモニターで見ている白衣を着た人物がいた。真剣な顔でモニターを見つめていたら、扉が開いてスーツ姿の男性がモニター室に入ってきた。


「どうだね、患者の様子は?」


「はい、今現在は何の問題も起こっておりません。ただ、金式かねしきさんは時々正気に戻るようです」


「そうか。だがそれも時間が解決してくれるだろう。ココには心が壊れた人達しか居ないからな。暮らしていたら、同じように心も壊れていくさ」


「はい、金式かねしきさんも何れは何の疑問も持たなくなるでしょう」


「全く、日本も怖い国になったもんだな。親が長生きし過ぎて遺産が手に入らないからって、この施設に年齢を理由に放り込むんだからな……」


「先生、それを言っては……」


「ああ、分かってる。国の方針でもあるからな。この部屋でしか愚痴は言わないよ」


 東暦2022年、日本ひのもと政府はある政策を密かに若者に知らせた。増えすぎた老人を一か所に集めて、巨大な施設で自分達で生活させると。

 そこにいる介護士も実は心が壊れていて、自分を介護士だと信じている人達だけを集めてあった。


 施設に入れられた老人達はやがて、その介護士達の世話により、心が壊れていく…… 



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新政策(88歳) しょうわな人 @Chou03

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