第6話

だが、どこに行っても扱いは同じもので、道を歩いているとすれ違う人々が俺を見て顔を顰める。


中には石を投げてきたりわざとぶつかってくるやつさえいる。


俺は何度目かわからない尻餅をつきながら、よろよろと立ち上がる。



あれから他の不動産屋も回ったが、対応は似たようなものだった。門前払いされることも多く、俺はすでに挫けそうになっていた。



石を投げてくる人々から逃れるように街を歩いていれば、自然と先程のスラムの近くに戻っていた。




(今の格好ならスラムにいても馴染めそうだな。)


ふとそんな事を思って自嘲するように笑った。先ほどから何度も転ばされた俺の格好は薄汚れてボロボロだ。



いっそもう彼らと一緒にスラムで暮らそうか。生きていくのは大変だろうが、少なくとも同じ立場の彼らとなら対等でいられるはずだ。


俺が引き寄せられるようにスラムに向かって歩いていると、その手前に小さな不動産屋の看板が出ていることに気づいた。



「・・・・・・・・・」


どうするか迷ったが、俺は意を決してその店に入った。


(これが最後だ。)


この店を追い出されたらもう諦めよう。そう思って店内へと入る。





中には初老の男性が座っていた。


「あの、家の購入を考えているんだが・・・」


「あんた、その腕・・・」


「やっぱり、障害者ではだめか?」


店主の反応にがっくりと肩を落とす。



「いや・・・俺の息子も障害者だった。」


無理矢理追い出される前にさっさと退散しよう、そう向けた背中にそんな言葉をかけられる。


「そう、だったのか・・・今はその息子もいるのか?」


驚いて振り返る。これは希望が持てるかもしれない。そう思った俺は軽い気持ちで尋ねてみた。



「いや、息子は死んだよ。数年前、街の奴らにデカい石を投げられてな。あたりどころが悪かったようだ。俺は仕事で、気づいた頃には・・・倒れた息子を助けてくれるやつもいなかった。」


その言葉に息を呑む。まさかそんな理由で死んでいたなんて・・・




下手をしたら俺もそうなってたかもしれないんだな。


「それは・・・お気の毒に・・・」 


何と言葉をかけたらいいのか分からず、辛うじてそう口にした。


「ああ、まさか殺されるとはな・・・後悔ばかりだ。あんたも、ここまで来るのは大変だったろ。」


「あ、まあ・・・」


気遣いの言葉になぜか返す言葉に詰まってしまう。それにこの人は障害のある息子をちゃんと愛していたんだな。




「それで、どんな家を探してる?」


「いいのか?」


「当然だ。自分の息子を見てわかったよ。障害者が罪人なわけないってな。」


「っ、そうか・・・ありがとう。」


そうして俺はその男性、ダンさんに要望を伝えた。




「それなら、新しく建てた方がいいな。少し時間はかかるが。」


「この金額で足りるか?」


「ああ、大きさにもよるが十分だろ。にしてもすごい額だな。」


「はは・・・一応家が金持ちでな。」 


「探るようなことはしないさ。それで本当にこんな治安の悪いとこでいいのか?」


「ああ、そこなら今スラムに住んでる奴らにもほとんど影響が出ないだろ?」


「そうだな。じゃあここに家を立ててやる。段階的に作るとはいえ完成には8ヶ月くらいかかるからな。」


「ああ、感謝する!」


そうして俺は前金として半分の料金を支払った。これでほぼ全財産をはたいてしまうが満足だった。


入り口まで見送りに来てくれたダンさんを振り返る。



「その、なんだ。息子さんは幸せだったと思うぞ。少なくとも、父親には愛されていたんだから・・・」


「お前さんは・・・・・・いや。そうだといいなぁ・・・」  


「きっとそうさ。」


そうして俺は店を後にした。

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