第5話
俺が向かったのは不動産屋だ。
まずは街で一番大きな不動産屋に行ってみる。そこは富裕層向けのようで、店も非常に煌びやかだ。
「いらっしゃいませ。」
店の中に入ると、店員の男が挨拶をする。その男は顔を上げると俺の格好を見て少し怪訝そうな顔をした。
「あの、当店にあるのは高額な物件ばかりですが、失礼ながらお客様は・・・」
「金ならある。家の購入か、あるいは建ててもらうことを考えている。」
「そうでしたか。ではお先にご案内致します。ローブをお預かりしましょう。」
「いや、ローブはこのままでいい。」
「申し訳ございませんが・・・当店は格式を重んじておりまして・・・その、お客様の格好は少々・・・」
「・・・わかった。」
ドレスコードあるタイプの店なのか、あまり身なりが悪いと受け入れてもらえないようだ。俺は渋々ローブを脱いで店員に渡す。すると、その店員は俺の右腕を注視していた。
「・・・こちらにどうぞ。」
明らかに冷たくなった店員の態度に眉を顰める。
「それで、どう言った物件をお探しで?」
「スラム街に大きな屋敷を建てたい。」
前世の世界のある国には『死を待つ人の家』といるものがあると言う。行ったことはないが、貧困や病気で死にそうになっている人を看取るための施設というそこに感銘を受けた。
流石に死ぬ直前とは言わないが、今スラムで暮らしている人々に屋根のある場所を提供したい。なんなら自分も伯爵家が居づらくなったらそこに住もうかと考えている。
そんなわけで家を買いたいと思って来たのだが・・・
「はっ、スラム街ですか?あんなところに住もうだなんて・・・失礼ながら予算はいくら程で?」
馬鹿にしている態度が目に見えて腹が立つが、ここはグッと我慢だ。
「このカードの上限までなら。」
そう言って俺はカードに表示されている額を見せる。
「これは・・・こんな大金をどうやって・・・」
しばらく驚いていた店員だが、急に立ち上がると俺の左腕を掴んだ。
「お引き取りをお願いします。」
「っ!?なぜだ?」
「これ、盗んだお金でしょう?あなたのような罪人がこれだけの金額を稼げる訳がない。」
「これは家の金だ!盗んだわけでない。」
「家?それほどの額を用意できるとなると貴族の家でしょうけど、どちらの方ですか?」
「それは・・・」
俺がアーデン伯爵家の息子だということを両親は隠したがっている。ここで俺が名乗りを上げて家に確認でもされたら・・・
「ほら、言えないじゃないですか。さっさと出ていかないと憲兵に突き出しますよ?」
「っ、わかった。もういい。」
俺はカードをひったくった。こんな店こちらから願い下げだ。
「ローブを返せ。」
「ああ、あの薄汚いローブならこちらで処分して差し上げますよ。罪の証を隠すなんて汚らわしい。そのまま帰りなさい。」
「なっ!」
俺はそのまま店員に店の外へと放り出された。ローブを取り返そうと縋り付くも足蹴にされて終わりだ。
「くそっ」
そう悪態をついて立ち上がると周りに小さな人だかりができていた。人々のヒソヒソ声が聞こえてくる。
「見て、あの腕・・・」
「なんであんな店に入ったんだ?」
「お母さん、あの人腕がないよ?」
「ほら、悪いことをするとああなってしまうのよ。」
周りが俺のことを話しているのだと気づいて、居た堪れなくなった俺は、その場から逃げるように立ち去った。
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