第7話

家に帰れば出かけた時と何ら変わらない雰囲気で、やはり俺がいなくなっていたことにも気づかれていないらしい。


ホッとしたような寂しいような、複雑な気持ちで裏庭からこっそり部屋へと戻る。使用人口を使うと俺の部屋は近いのだ。


そうして外でボロボロになってしまった服を脱いで体を綺麗にした。今日はもうくたくただ。


俺は夕食を失敬することを諦めてベッドへと潜り込む。


(8ヶ月後が楽しみだな。)


そうして、とりあえずの目的を達成できた事に満足して瞼を閉じた。


 




翌日。今日は日曜だ。


月に2回、第二と第四の日曜日には俺の嫌なイベントがある。


家族で教会にお祈りに行くのだ。何が悲しくてこんな障害者を差別する宗教にお祈りしなきゃならないのか。


過去の#俺__テイト__#もそう思っていたようで、何度か駄々をこねたことがある。だが、結果それは両親に怒られ、引き摺られるように連れられていくという結果に終わった。



それからと言うもの、俺は文句を言うのを諦め、渋々一緒に行っている。


でもお祈りの際は家族とは離れた席にローブをかぶって座る。それなら連れて行かなくても、と思わなくはないが、敬虔な教徒である家族としてはお祈りに行かないと言うことが許せないらしい。



そうして今日もカインが迎えにやって来た。





「テイト、そろそろ行くけど準備できてる?」


「ああ。」


「って、全然着替えてないじゃん!ほら、手伝うからこっちに来て。」


俺は簡素なシャツにズボンという格好だ。もっと貴族らしい服もあるのだが、あの凝った服を片手で着るのは億劫だ。


「いや、いいよ。どうせローブを羽織るから服なんか見えないし。」



そう言って俺はローブを掴んで部屋を出る。その後ろをカインが慌てて付いてくる。


「待ってテイト。じゃあせめてこれだけ。」


そう言って見せてきたのはグレーのタイだ。


「そんなもの・・・」


「首元は見えるかもしれないでしょ?付けるからじっとして。」


カインは俺には構わずタイを結んでくる。


「はい、できた!」


「・・・ありがと。」


ぶっきらぼうに礼を言えば、カインはにっこり笑って俺の横に並ぶ。


「最近テイト、少し穏やかになったね。」


「・・・そうかな。」


「何かあったの?」


「別に。」


「それに、なんだか痩せてない?ちゃんと食べてる?」


「・・・?さあ・・・?」


こいつは俺に食事が出されていないことを知らないのだろうか。それに痩せたとはいつの頃と比較してるのやら・・・


頭にはてなを浮かべて返事をすれば、「さあ?って・・・」とカインから呆れた声が返ってくる。


そうこうしているうちに正門まで着いた。そこには既にお父様とお母様が待っていた。




「遅かったな。」


「お待たせしましたお父様。」


「それじゃあ、行きましょう。」


そうして4人、馬車に乗り込む。4人いるはずなのに会話する声は3人分だけだ。




(以前は#俺__テイト__#もこの会話に参加しようと必死だったんだよな・・・)


今の俺はそんなことに労力を費やす気になれず、ボーッと窓の外を見つめた。


「テイト・・・テイト!」


「ん、何?」


意識を飛ばしていたらカインに話かられていたらしい。


「どうしたの?今日はやけに静かだから・・・調子でも悪いの?」


「別に、なんともない。」


「何ともないなら多少は家族とコミュニケーションをとったらどうだ。」


そう睨んでくるお父様に溜息をつく。


(頑張って会話に参加しようとすれば相手にしないくせに、話さなければそれはそれで怒られるのか・・・)



俺はもう好き勝手にすると決めたのだ。こんな事で謝ってやるものか。



「伯爵様と伯爵夫人は俺とは話したくないのかと・・・今まで相手にされた事もありませんでしたし。だから静かにしていました。」


「別に、そんな事は・・・それにその話し方は・・・」


「私のことを家族と思っていないのでしょうし、居ないものとして扱ってくれて構いません。」


「テイト、そういう訳ではないのよ・・・!」


お母様が口を押さえてそんな事を言う。ではどういう訳だと言うのか。



「テイト・・・」


カインが何か言いたげだったが、馬車が教会についたらしい。


「では、また帰りに。入り口のところで待ってますので。」


俺はそう言ってローブを目深にかぶり馬車から飛び降りた。

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