『魔法売ります』異世界から来たエルフっ子は88歳、魔法使いでホームレス

無限飛行

魔法売ります。

ここは毎年開かれる同人誌即売会会場、通称コミケ。


その販売ブースで、大勢の人々の人気を博している一つのブースがあった。

そのブースは『実演即売会』と、大きな看板を出しており、何かを実演しながらビー玉を売っているようだ。


実演者は、小さい女の子の様だ。

一見すると小学生くらいだが、かなり凄いコスプレをしている。


大きな黒い魔法使いの帽子、黒い魔法使い風の衣装、黒いブーツ。

大きな青い水晶玉が先端に填まった、女の子の背丈を越える魔法使い風の杖。

北欧系の白い肌、青い碧眼。

床に付く程の、手入れが行き届いた美しい金髪。

そしてなにより、SFX張りの特徴的な長いエルフ耳。


そう、魔法使いでエルフのコスプレである。


さらに人集りの目的は、その子の撮影。

何故か?その子は、はっきり言って北欧子供モデル以上の美少女なのだ。

周りに集まるのは、その子にスマホを向けるオタク男達だ。


「ウォーターボール!」


少女が叫ぶと、杖の先端の丸水晶が輝き、空中に大きな水の塊が現れる。

そして瞬時に5メートル先の、立て掛けてある板に飛んでいく水の塊。


バシャッ

「「「「「「おおーっ!」」」」」」

歓声があがる。


「はーい、それでは『魔法の種』のビー玉の販売を始めまーす。並んで、並んで!」


そして、ビー玉は飛ぶように売れていく。


販売してるのは、高校生の3人。

卓球部所属、山本祐介。

卓球部所属、岡部たかし。

漫研部所属、佐伯ゆり。


彼らが少女に出会ったのは、一週間前だ。

一番最初に接触したのは、山本祐介だった。


▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩


祐介視点


「山ちゃん、今日はどのルートで帰るのかな?商店街?それとも、河川敷?岡部君との絡みがあるの?じゅるっ」


「あーっ、いや、今日は部活を早上がりだから、アイツに会わねーよ?ってか、ヨダレながしてんじゃねーよ。気色悪い!」


佐伯ゆりは、自称BL作家。

筋金入りの腐女子だ。

普通にしていれば、それなりに美少女なんだが、事あるごとに俺と岡部をくっつけたがる変態だ。

俺たち3人は幼馴染みなんだが、何処で間違ったのか、ゆりが男同士の絡みを愛でる変態になっちまった。

勘弁してほしい。


「じゃ、俺は河川敷を走って帰るから」

「こっそり岡部君に会うんでしょ?見たい」


「いや、絶対無い。そのトロけた愉悦の顔はやめれ!お前一応、クラスナンバー1の美少女扱いなんだぞ?」


その後、何とか説得して別れたが、アイツは年々変態を拗らせつつある。

困ったものだ。

なんでも俺と岡部はイケメンで、その絡みをBL小説に書くと五割増しで同人誌が売れるとか。

全然、嬉しくないんだが。


▩▩▩◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


俺が河川敷を歩いていると、河川敷に幾つかの掘っ立て小屋が見えてくる。

いわゆるホームレス小屋だ。


最近は多少は減ったが、まだ結構ある。

一時、ホームレスの就業支援でまだ、働けるホームレスは河川敷を出ていったのだが、何処にも働く事の出来ない老人のホームレスだけが残ったのだ。


ふと見ると、一つのホームレス小屋から煙が上がっており、高校の不良が二人、松明で辺りに火を点けてやがる。

いわゆる弱者苛め、ホームレス狩りだ。

なんて迷惑なんだ。

俺は止めさせようと、二人に近づいた。


すると突然、二人の5メートルくらい空中に何か、大きな塊の様なものが現れる。

「は?なんだあれ!?」


よく見ると、それは丸い水の塊だった。

だが、直径が3メートルくらいある。

俺が驚いて見ていると、それが一気に二人に降り注ぐ。

二人は、悲鳴を上げて逃げていく。


俺はそのホームレス小屋が気になり、小屋を覗く事にした。

俺が小屋に近づくと突然、声がする。


「誰じゃ!また、悪ガキ共か!」


なんだ?子供の声だ?

俺は、半透明の波板の向こうに映る、小さいシルエットに怒鳴る。

「こら、ガキはどっちだ!子供は、早く家に帰れ!」


ガタンッ


中から現れたのは、金髪、碧眼の外国人の子供。

しかも、ゲームに出てきそうな大きなつば付き帽子と杖。

魔法使いの出で立ちだ。

その子供が俺を睨みながら、言う。


「馬鹿め!このケツの青いガキが!わしは、こう見えても88歳じゃぞ!この辺りのガキは、目上の者を敬うという事を知らんのか」


は?88歳?なんの冗談だ。

どう見ても小学生低学年だろうが。


「おい、外人のガキにしては、随分日本語が上手いが、その格好とさっきの話しはなんだ?この辺は物騒なんだ。早くパパ、ママのところに帰れ!さもないと、小屋の家主にどやされるぞ」


パコンッ、痛?!

コイツ、俺の頭を杖で叩きやがった。

どういう事だ。


「この小屋の家主は、わしじゃ。お主こそ、さっさと家に帰れ!さもないと、魔法をお見舞いするぞ!」


俺は、外人のガキがまた、杖を振ってきたので、避けつつ首根っこを掴んで持ち上げた。


「こりゃ、離さんか!わしを誰じゃと思っておる!?わしは、こう見えても勇者パーティーの」

「ああ、うるさいガキだ。外人の家出人か何かだろ?交番に連れていってやる」


「ぐわ~、止めんかーっ!」


ガキは、持ち上げられて暴れてやがる。

もっと落ち着けよ、ガキ!

あ、帽子が落ちた。

はあ?


俺は、思わずガキを手放した。

なんでかって?

なんだよ、どんだけ薄汚れたガキかよって思っていたら、北欧の子供タレント並みの美幼女じゃんか。

なんでこんな子が、こんな河川敷にいるんだよ。

その時、小屋の中から弱々しい声がする。


「ああ、メル。どうしたんじゃ?ゴホッゴホッゴホッ」


「じ、甚平!」

「な、他に誰かいるのか?」


北欧系の幼女は、起き上がると俺を無視して慌てて、小屋に入っていく。

俺も事情が分からず、勝手に付いていく。


小屋のなかに入ると、一人の老人が寝ていた。

「ゴホッ、メル。なんじゃ、また、悪ガキか?」

「大丈夫だ。もう、撃退したのじゃ」


老人は特に外傷はないが、何か病にかかっている様に痩せこけていた。


幼女は老人の橫に座ると、老人の手を持ち、何やら口ずさんだ。

すると幼女の手が青白く光り、手を通して老人に光が伝導する。

俺は、目を見開いた。


「なんだ、それは?!」

「これか。これは、痛みを和らげる魔法じゃ」


「魔法?そんなものが」

俺は、幼女の回答を否定しようとした。

だが老人が、俺の発言を遮る。


「魔法じゃよ。ゴホッ、お若いの、わしの話しを聞いてくれるか?」

それから甚平を名乗る老人から、二人の話しを聞いた。


▩▩▩


老人は、大岡甚平といった。

生まれは1934年(昭和9年)、88歳。

彼は15歳の時、剣と魔法の世界ルーデアに召喚された勇者だという。

そして、ルーデアを破壊しようとした当時の魔王を打ち倒し、ルーデアに平和をもたらした。


だが魔王討伐後、勇者の力を恐れた召喚国の王が、甚平を罠にかけた。

勇者の仲間であった魔法使いメルと供に、座標を定めぬまま、亜空間に放り出してしまったのだ。


亜空間内は不思議な事に、飲食せずとも平気で、睡眠だけは定期的に取っていた。

どこまでも灰白色の空間で、足場だけある無限の広野だ。

それから長い年月、亜空間をさ迷い、ここに辿り着いた。

ここに着いたのは、一週間前。


だが甚平は、辿り着いた直後から急速に年をとり、最近やっと老化が収まったが、年寄りになってしまったという。


▩▩▩


にわかには、信じがたい話しだが、目の前でメルの魔法を見せられ、信じざるおえなかった。

しかもメルに耳を見せられ、メルが物語に出てくるエルフであると知らされた。

思わずメルの耳を引っ張ってしまったが、本物で、しかも自由に上下に動くのだ。

勿論その後、杖でしこたま殴られたが。


結局、二人はこの世界に頼る者もいなく、たまたま最初に辿りついたこの河川敷での野宿生活をしていたらしい。


「それでじゃ、わしの魔法理論によれば、甚平の老化を戻すには、今一度ルーデアに転移出来れば、戻す事が出来るのじゃが、媒体である物が必要での」


「媒体?それは、なんだ?」

「先日、デパートなるところの宝石店で見つけたのじゃが、ダイヤモンドという物なのじゃ。数字が貼ってあって、10000000となっておっての」


「おい、そりゃ一千万円じゃないか?!そんな大金あるのか?」

「有るわけなかろう。わしらは、この世界の通貨を持っておらん」


メルは、ガックリと肩を落とした。


「そうか、金を稼げればいいのか!」

「何か、方法があるかの?」


それから俺は、岡部、佐伯に協力を仰ぎ、佐伯が同人誌を販売しているコミケで、魔法を売る事を考えた。


幸いメルは、ビー玉に魔法付与が出来た。

だが初歩魔法行使、三回分の魔力を入れる事が出来たが、メルの作成が一日、3個程度なのが苦しいところだ。

しかし、地道にやるしかない。


佐伯、岡部は、メルの耳や魔法の実演にすぐに、俺の話しに乗ってくれた。

二人は、ラノベファンでもあり、この手の話しが現実にあると、何故か信じていたらしい。


そしてコミケ当日、ビー玉を1個、1万円で販売したんだが、たいして売れない。

俺が何か方法を考えていると、佐伯がメルの魔法実演を提案、するとこれが大当たりだった。

大勢の人集りが出来、販売ブースは長蛇の列が出来た。

ビー玉は飛ぶように売れ、何故か佐伯のBL同人誌も売れた。


▩▩▩


だが、目標金額を手にした俺達が、小屋に戻った時、甚平さんは亡くなっていた。


此方に着いた時から、身体はボロボロだったのだ。

「甚平!!何故じゃ。何故、待てんかったーっ!」


そして、泣き崩れるメル。

なんて結末だ。


俺達が泣き続けるメルに、声をかけられずにいると、突然、俺達の前にサングラスの男達が現れ、俺達を突飛ばしてメルを拐って行ってしまう。

奴らはメルの魔法に興味を持った、とある国の機関だった。


そして今、俺達は拐ったサングラス達を追いかける。


大事な仲間を助ける為に。


































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『魔法売ります』異世界から来たエルフっ子は88歳、魔法使いでホームレス 無限飛行 @mugenhikou

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