虚の輪 3 互いに似て

 目の前にある、大ぶりのパンを差し出す小さな掌の匂いに、口の端を上げる。


 やはり、親子だ。匂いも、パンを差し出す動作も、似ている。受け取ったパンを一口で飲み込んでから、ヤンは顔を上げ、『小さな人』である自分とは異なる『大きな人』の一人、ライの、左袖で光る七つの線に目を細めた。この線も、ライの父ヴィントと、同じもの。


 その父が好んでいた場所に向かうのであろう、小柄なヤンの横を通り抜け、森の奥へと歩を進めるライの後を追う。


 そういえば、ライに、ヴィントが好んで持って来ていたパンを焼く店のことを、まだ教えていなかった。口の中に残る小麦の味を思い返しながら、ヤンはもう一度、ライの、ヴィントに似た背を見上げた。

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