五の輪 6
その状態で、どのくらい、うとうととしていただろうか。全身を走る、鋭い感覚に、ライははっとベッドから身を起こした。
辺りは、目の前が見えないほどに、暗い。だが、この、気配は。ベッド側に置かれていた、エーリチェからもらった剣を掴むなり、ライはベッド横の窓から空中に身を踊らせた。
背中に翼を思い描きながら、前方の闇を見据える。膨らんだ胴体と、その胴体に続く長く重い尾を認めるや否や、ライは翼を精一杯羽ばたかせ、固い尾が王宮の塔を叩き壊す前にその長い尾を手にした剣で叩き斬った。
夜空を覆う幻獣の、聞こえない咆哮が、空気を大きく震わせる。その声無き声に、翼が乱れるのを感じながら、ライは今度は幻獣の頭に剣を差し込んだ。もう一度、大きく震える、声無き声の中に、聞き覚えのある声を見つける。この、声は。
「ユニ!」
叫んで、幻獣の長い首を剣で薙ぐ。頭と首を傷付けられてもなお、胴体に続く鋭い爪でライを、そして王宮を壊そうとあがく幻獣の腹を剣で刺し広げると、思った通り、泣き喚くユニの、小さな身体が出てきた。
剣を手から離し、ユニの身体を抱き締める。同時に感じたのは、自分の身体が思いがけない速さで下に落ちる、風と感覚。
〈翼、を〉
ともすれば暗く塗りつぶされてしまう意識の中、それだけを、念じる。風の速さが和らぐと同時に、冷たい衝撃が、ライの背から全身に走った。
僅かに目を開き、辺りを見回す。星の無い夜空が、ずっと遠くに見えた。
〈大丈夫、だ〉
そっと、腕の中の小さな塊を、確かめるように抱き締める。まだ、温かい。泣きじゃくる声も、確かに聞こえる。大丈夫。ユニは、無事だ。
と。
「ライ!」
複数の足音と、高い声が、耳を叩く。この、声は。確かめる為に首を横に向ける前に、ライの腕から僅かな温もりが取り上げられた。
「ユニ!」
「姉様!」
サジャと、それに続くユニの声に、ほっと胸を撫で下ろす。そしてそのまま、ライの意識は深い闇に飲み込まれた。
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