五の輪 5

 次に目覚めた時には、イーディケ伯母と同じ色の瞳が明るい天井を背景に笑っていた。


「お、気が付いた」


 父方の、従兄のゼーレだ。彼がいる、ということは、ここは、南の国の王宮内。無事に、戻って来ることができたのだ。熱があるのかぼうっとする視界の中、ライはほっと、息を吐いた。


「サジャ姫は?」


 その安堵のままに、ライの額の濡れ手拭いを取り替えてくれるゼーレに、荷馬車に一緒に乗っていたはずのサジャのことを尋ねる。


「母上のところ」


 口から出てきた自分の声のざらつきに驚く前に、ゼーレは笑みを浮かべたまま、ライの問いに答えてくれた。


「女の子が側にいて、嬉しいらしい」


 嫁いだゼーレの姉が残していった昔の服を引っ張り出してきて、ゼーレにはよく分からないが楽しく過ごしているらしい。肩を竦めたゼーレに、ライは静かに微笑んだ。サジャ姫が無事なら、今のところは。


 だが。


「そう言えば、皇国は大変なことになっているらしいな。『幻獣』が暴走している、とか」


 続いてのゼーレの言葉に、全身がびくっと震える。ライが倒さざるを得なかった、幻獣化させられた近衛騎士達の青白い顔と、皇城地下の怪物に力を吸われて息絶えたテムの苦悶の表情とを同時に思い出し、ライは思わず呻いた。


「大丈夫か?」


 その呻き声に、ゼーレの表情が曇る。痛みと苦みを無理矢理飲み込み、ライは大丈夫だというようにゼーレに対して頷いた。


「なら、良いけど」


 ゼーレの父であり、南の国の王でもあるルフ伯父は、国境を接する皇国の様子を見守る為に、騎士達と共に国境近くの砦に赴く準備をしているらしい。ゼーレの言葉に、息を吐く。そして。


「最南伯ザイン殿にも、ライを迎えにくるよう手紙を出してある」


 しばらく、故郷で静養した方が良い。おそらくルフ伯父の言葉であろう、優しげなゼーレの言葉に、ライはもう一度ほっと息を吐いて目を閉じた。

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