三の輪 5
ゆっくりと、目蓋を上げる。
すぐ目の前に見えた、荒削りに見える天井に、ライの心臓は一瞬、飛び上がった。ここは、何処だ?
「気が付いたようだな」
鋭さを帯びた声に、気怠げに首を動かす。アールをそのまま女性にしたとしか思えない、凛とした気品を持つ細身の女性が、ライを見詰めて微笑んでいるのが、見えた。アールと異なる点は、ただ一つ。アールは、ライと同じ黒みを帯びた蒼色の瞳を持つが、この人の瞳は、燃えるような紅玉の色。この、人は。ライの脳裏が、父の行動を夢に見た時の記憶を引き出す。もしかして。
「私はエーリチェ。北の国の女王」
予想通りの言葉が、ライの耳に響く。
「まだ少し、熱があるな」
その細く白い指でライの額に触れた北の国の女王エーリチェは、再びライを見詰め、溜息に似た笑みを浮かべた。
「皇国からの小さな客人二人は、アールが狩りに連れ出している。そなたは、……もう少し休むが良い」
エーリチェの言葉に、頷いて目を閉じる。
「そなたの熱が下がったら、……ヴィントのことを、話さねばならぬな」
沈んだエーリチェの、それでもはっきりとした言葉を、ライは夢現に聞いていた。
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