一の輪 6
目を開いても閉じても同じ、暗闇に、息を吐く。
一体何日、この地下牢に閉じ籠められているのだろうか? すっかり無くなってしまった時間の感覚に呻きながら、湿った床の上で体の向きを変えると、僅かに明るい天窓が、見えた。鳥の姿を取ることができれば、あの天窓から逃げることができる。しかし今の自分には、その力は残っていない。喉の渇きは、地下牢の石壁を伝い落ちる僅かな水滴で何とかしているが、この場所に閉じ籠められてから、食べ物は一切供給されていない。お腹が空くという感覚も、すっかり忘れてしまっている。策を弄して皇女を拐かしたという濡れ衣とともにここに閉じ籠められる時に負った足の傷も、この冷たく湿った空間で別の熱を持ってしまったらしく、精神の集中ができないほどに全身が震え続けている。後何日、保つだろうか? 絶望が、頭と心を支配する。すぐにでも、命を落とした方が、楽になるのではないだろうか。……それで悲しむ人は、誰もいない。大切にしようと思っていたあの人は、理由はどうであれ、……捨てて、しまった。
と。
「……まだ、生きているのか?」
傲慢な声が、暗い空間に響く。この声は、知っている。皇女レナを拐かしたと、ヴィントに濡れ衣を着せた奴ら、この前の武術試合で、降参を叫ぶ者をなぶり殺しにしようとした行為に憤りを覚え、試合のルールを無視して試合場に飛び込みボコボコにした相手、確か、皇国の北の支配を任されている諸侯の一人、北の大公の息子だと聞いている奴と、その取り巻き達、だ。
怒りが全身を支配する前に、首に縄が掛けられる。
「全く、あれだけ策を弄したのに、証拠不十分で釈放とは」
苛立たしげな声が、石壁に反射して大きく響いた。
「まあ、自殺に見せかければ、誰も俺達に嫌疑は掛けないさ」
「そうだな」
縄で首を圧迫されて、息ができない。あえぎながら、脳裏に浮かんだのは、安堵感。これで、……死ねる。
強く揺さぶられて、はっと、瞼を上げる。
「大丈夫か?」
ぼうっとした視界に映ったのは、見たこともないほど綺麗な、澄んだ碧色の瞳。
「全く、あいつらときたら」
「ああいう奴らですよ、あいつらは」
目の前とその向こうから、怒りに満ちた言葉が響く。
この人は、誰だろう? 目の前の、碧色の瞳を、もう一度見詰める。助けてくれた、この人の名前が、知りたい。しかし次の瞬間、視界は突然、真っ暗になった。
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