一の輪 5

 次の日。


 レナに言われた通り、ライは、皇女サジャとともに施療院を後にした。


「朝の林って、素敵ね」


 ライの前を、はしゃぐように歩くサジャに、微笑む。その姿はどう見ても威厳ある皇女には見えない。ライよりも一歳半、年下らしいが、もっと年下にも見える。そして。


「ライ、約束は守ってよ」


 突然振り向いた、サジャの言葉に、笑って頷く。昨夜の夕食前、暇だというサジャに、ライは自分の身体の気怠さを解消する目的半分で剣の技の基礎を教えた。それが、サジャには面白かったらしい。毎日皇城へ来て、もっと剣の技を教えて。半ば無理矢理、ライにそう約束させたサジャの無邪気さに、ライは少しだけ呆れていた。皇女様も、身を守る為に剣の技は必要だろう。しかしそれ以外にも、学ぶことはたくさんあるはず。なのに、サジャのこの自由さは何なのだろうか? ライがそこまで考えた、正にその時。


「サジャ様!」


 中途半端な時刻の所為か人通りが無い、皇都の南側の橋に辿り着いたところで、濃い青色の上着を着た四人の男に取り囲まれる。上着の色からすると、彼らは近衛騎士。ライがそう、判断するより早く。


「おまえかっ!」


 近衛騎士の一人、一人だけ左袖に二つの線を付けた男が、不意にライの襟を掴む。


「サジャ姫を拐かしたというならず者は!」


「はいっ?」


「ちょっと!」


 思わぬことに混乱するライと、ライの襟を掴む騎士との間にサジャが割って入る。しかしすぐに、別の騎士がサジャの腕を掴むのが見えた。


「ライは、私を助けてくれた……」


 近衛騎士の腕に抵抗するサジャが叫ぶ前に、背後からの殺気に気付く。サジャを、か弱き者を、守らなければ。襟を掴む腕を掴み返しつつ肩だけでサジャを庇ったライは、次の瞬間、横から現れた別の殺気に意識をぶん殴られて気を失った。

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