秘めた力③
原石指輪許可証を携えて、一行は学園を出た。
向かう先は、勿論原石指輪を扱うお店、リングショップだ。
「こうして全員で町に出るの、久しぶりじゃない?」
ショップへ向かう道中、ふと麗奈が口を開く。
学園では、放課後や休日は門限があるものの外出が許されている。
しかし放課後に出かける者は少なく、楝自体が休日あまり外出しないことを皆知っている為、五人揃って町へ出かけることはあまりないのだ。
「そういや、そうだな。因みに最後に全員で出かけたのって何時だっけ?」
「確か、良隆の誕生日祝いとして食事に行った時ですから……。3ヶ月ほど前でしょうか」
拓郎の問い掛けに、智輝が答える。
「それもこれも、楝が引きこもりなのが悪いのよ。買い物とか誘ったって、いっつも断られるしさ!」
「引きこもりは心外だけど、なんか言い返せないな……」
麗奈の膨れ顔を見ながらも、楝は苦笑いを浮かべる。
実際のところ、楝の休日はほとんどがギルドでの仕事だ。訓練をしたり、ギルドのダークソウル研究を手伝わされたり、何故か下位ランクのハンターに実戦指導させられることもある。
それら全てを隠すためには自室からギルドへ転移するしかないので、引きこもりだと勘違いされても反論できないのだ。
「弁解があるなら、今度ゆっくり聞かせてもらうから!」
「了解しました、麗奈殿」
彼女には、人として一生勝てそうにない。
勝ち誇ったように笑う麗奈に、楝は再度苦笑いを浮かべるのだった。
原石指輪は特殊な鉱石を下に作られ、その原料が取れる鉱山は国単位で管理されている。
そして国から許可を得た一部の宝石店が、原石指輪店として原石指輪の取り扱いを許されているのだが――。
「蔵町宝石店。どうやら、ここの様ですね」
しばらくして、地図と睨み合っていた智輝の足が止まった。
そこにあったのは、周囲のビルより明らかに浮いた、いかにも年代を感じさせる古い建物。
今時珍しい木製の看板に、大きく「蔵町宝石店」と書かれている。
「な、なんか雰囲気あるなぁ。色んな意味でよ」
「拓郎に同感だぜ……」
何か出るとでも思っているのか、拓郎と良隆は顔を引きつらせながら、建物を見つめる。
「確かに雰囲気あるけど、本当にここなの?智輝?」
「そのはずですよ麗奈。許可証の店名とも一致しますから」
原石指輪は、全員が同じ場所で受け取るのではなく、それぞれ許可証に記された店でしか交換できないことになっている。
なんでも、ひとつの店に何十人と押し寄せたらしまっては店側の負担が大きすぎるから、という理由からの措置らしい。
「なんでもギルド創設と同時期の創業とかで、
「心具? なんだそれ?」
智輝の説明に、間の抜けた顔で問いかけたのは拓郎。本当に、彼はいつもどこか抜けている。
「拓郎、授業でも習ったでしょう。ハンターがダークソウルを倒すために使う武器ですよ、武器!」
「確か、特別な魔石を使って作られる武器だっていっていたような……」
「良隆のいう通りです。魔石に霊力を送り込むことで作られるもので、素質がある者--つまりハンターと成り得る者にしか作ることが出来ないのです」
「だから世間には、あまり浸透しなかったのよね。智輝」
「麗奈、正解です。拓郎ももう少し勉強して下さいね」
「なんでそうなるんだよー」
智輝のわかりやすい解説対し、それぞれの反応。それを上手く諌める彼を見て、楝が思わず小さく笑った。
「智輝、なんか初等部の先生みたい」
「な!?」
楝の思わぬ発言に、智輝の顔が真っ赤になる。
それを見た拓郎が吹き出し、伝染するように他の四人も笑い出す。
「笑わないで下さい!楝も変なことを言わないで下さいよ!」
羞恥から更に顔を真っ赤にしながら怒る智輝の姿に、一同は余計に笑わずにはいられなかった。
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