秘めた力②
やがて望月が教室に入ってきたため、楝達も自分の席へと戻った。
しかしいつ見ても、彼の身体は筋肉がガッチリとしている。
これほどまでに逞しい身体であるにも関わらず、担当が体育でなく古代文なのだから驚きだ。
「今日も全員揃っているな。さて連絡事項だが、今日は
すると途端待ってましたといわんばかりに、クラス中が歓喜に包まれる。
「うおー!ついに来たかー!」
「楽しみだねー」
「俺昨日興奮して眠れなかったもん!」
まだホームルーム中だというのに、クラスは完全にお祭り騒ぎだ。
嬉しい気持ちは理解できるが、眠気のせいでもう少し静かにして欲しいな、と楝は内心ため息をついた。
ダークナイトのギルド加入以降、如何にしてダークソウル達はあの異能を引き出しているのか、研究が進められてきた。
その過程で、ダークソウルの異能は人間の魂本来が持ち合わせている力、霊力によるものだということが分かったのだ。
霊力とは生命の根幹を司る言わば命の力そのもの。肉体を持つ生きた人間では、生命の本能により霊力を枯渇させまいとしているのか、力を使うことができない。
逆にダークソウルは悪霊である為、概念的には肉体を持たない、魂のみの存在。故に霊力は使い放題、という訳なのだ。
それをどうにか、生命に影響がない程度で人間が扱えないかと更に研究が進められた結果、力の媒体となる原石指輪とそれを用いて使う力秘術が誕生したのである。
――原石指輪、正直いらないんだけど……。持っていなかったら後で奥村さんに怒鳴られそうだしなぁ。
こうも彼女が、ため息を着くには理由がある。
本来ダークソウルの力を持つ楝には、秘術の使用に原石指輪は必要ない。
しかも原石指輪は犯罪防止の為、通常時は外しておかなければならない決まりなのだ。
そのため学生生活を送りダークソウルが襲ってこない日中は、秘術を使う機会など毛頭ないのだが、ここでもひとつ問題がある。
それは、楝が学生であるということだ。
秘術が開発されたのは、ここ数年でのこと。故に秘術を使いこなせる大人は、正直言って少ない。
だから学生は学園で秘術を学ぶことが、法律で義務化されているのだ。
故に面倒だとはわかっているが、楝も原石指輪を所持しなくてはならないのである。
――ダークソウルの力を秘術だって誤魔化せたら一番楽だけど、眼の色が変わる時点でバレちゃうしなぁ……
おまけに彼女がダークソウルの力を使うと、本能が影響するのか、瞳の色が銀からダークソウルの証である紅へ変わってしまう。
それについてはこれまで余り気にしてこなかったが、今回ばかりはため息をつきたい。
「では、原石指輪許可証を配布する。予備はないから、各自一人一枚しか取るんじゃないぞ!」
そういうと望月は笑いながら、各机の列に水色の用紙を配っていく。
楝も前方から回ってきた用紙を受け取ると、後ろの席にいる麗奈へと渡した。
「ちゃんと一枚しか取ってないわよね?」
「二枚持っていたって何の得もないでしょ?」
顔を攻め寄りながら小言で話しかけてくる麗奈に呆れ返る。
何をどう勘違いをしているのかは知らないが、許可証を複数持っているからといって、原石指輪は一つしか貰えないのだ。
余分に取る理由がない。
「よし、全員受け取ったな。皆も知っての通り、原石指輪は秘術を扱う為に必須であり、我々人間がダークソウルから身を守る唯一の手段だ。明日からは秘術の訓練も始まるから、全員必ず今日中に原石指輪を貰っておくように!では、今日は解散!!」
望月が豪快に去っていった後、お祭り騒ぎになる教室。しかし楝は、ひとりポカンとしていた。
「え、授業は……?」
「何を言っているんですか?今日はありませんよ?」
返ってきた智輝の言葉に、表情そのまま思わず振り返る。
するとそれを目にした拓郎が、途端に吹き出した。
「ぶっ!?お、お前なんて顔しているだよ!すげー受けるぞ!!」
「は!?ちょっ拓郎!それどういう意味よ!!」
「そ、そのまんまだよ!!」
咄嗟に言い返す楝だったが、拓郎は完全に笑いのツボにハマったらしく、腹を抱えて笑っている。
意識していなかったとはいえ、拓郎にここまで笑われるなど不甲斐ないほど恥ずかしい。
楝は顔を真っ赤にしながら、彼を本気で氷付けにしてやろうかと思うくらいだった。
そのせいで完全に気づかなかったのだ。
力が僅かに外へ漏れだしていたことに。
「……なんか急に寒くなった気がしないか?」
「そ、そういえば、何か肌寒いわね」
良隆の言葉に、麗奈が制服を摩りながら身震いする。
楝のダークソウルとしての力は氷、故に拓郎への殺気地味たものが、冷気として外へ漏れてしまったのだ。
「ん?どうしたんだ、二人とも」
笑いに夢中だった拓郎も良隆らの異変に気付いたことで、漸く楝も力を漏らしていたことに気がついた。
「いや、さっきから寒気がしてさ」
「そうか?冷房でも付いてるんじゃね」
「言われてみれば、少し寒いですね」
……これはマズイ。
楝は咄嗟に深呼吸をして、漏れ出ていた力を無理矢理自分の中へと押し戻す。
おかげで僅かな冷気は残ったが、幸いにも充満しかけていた力は静まった。
「そういえば、さっき誰かが扉付近で悪ふざけしていたし、その時に冷房のスイッチでも当たったのかもね」
悪ふざけしていた生徒を思い出し、咄嗟に誤魔化しを掛ける楝。すると。
「そういえば、暴れてる奴いたな」
「確かにいたな」
「それじゃあそうなのかもしれないわね」
そういって三人は、それぞれが納得し特に気に留めなかった。
ただひとり智輝だけは、どこか納得しいない様だったが、他の三人が納得していた為深く追求することはなく、楝は内心安堵しながらも苦笑いを浮かべるのだった。
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