たまに実家に帰るのも悪くない
武海 進
たまに実家に帰るのも悪くない
「相変わらず何も無いな」
駅から出て数年ぶりに見た故郷は相変わらず何も無い田舎で、寂れていた。
こんな何も無い田舎が昔から大嫌いだった俺は大学進学を機に上京し、そのまま東京で就職した。
東京での暮らしは華やかで毎日が楽しく、田舎である故郷に帰る気がしなかった俺は大学進学以来、親にお盆や正月に何度も顔を見せに来るよう催促されたが一度も帰ってきたことが無かった。
だが今日は、祖父の88歳の誕生日で米寿の祝いをするから絶対に帰って来いと言われた。
正直いつも通り無視して帰らないつもりだったのだが、もうすぐ迎えが来るだろうから最後にもう一度顔を見たいと祖父が言っていると言われると、流石に帰らないわけにもいかなくなり、渋々帰ってきたのだ。
駅から少し歩いたところにある実家に着いて数年ぶりに会った両親に増えたシワと白髪に少し驚いたが、それ以上に米寿を祝う為に黄色いちゃんちゃんこを着せられた祖父の変わりようにかなり驚かされた。
俺が実家を出る前の祖父は年の割りにとても元気で毎日山に行って木々の手入れをしたり山菜を採ったりしていた。
だが今目の前にいる祖父は山に行くどころか立つこともままならなくなっており、見た目も昔に比べて一気に老け込んでいた。
「和也、帰ってきてくれたんか、忙しいのにすまんのう」
うるさいくらい大きかった声も弱弱しくなっていて不謹慎だが迎えが近いと言うのもあながち冗談では無いのかもしれないと思ってしまった。
その後久しぶりに家族で食事をし、一晩泊まった俺はわざわざ駅まで来てくれた両親と祖父に見送られて東京へと向かう電車に乗った。
車内でぼんやりと車窓から景色を見ながら両親と祖父、たった数年会わないだけであんなにも年を取って見えるのものなのかと考える。
そんな事を考えたせいか、駅で自分を見送る両親と祖父の顔が少し寂しそうに見えたのを思い出してしまう。
すると今まで自分のことばかりで実家に帰らなかった自分が急に我儘な子供の様に思えてきた。
「休みが取れたら来月も帰ろうかな」
今でも故郷は嫌いだが、あんな顔をされて平気な程両親と祖父のことは嫌いではないのだから。
たまに実家に帰るのも悪くない 武海 進 @shin_takeumi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます