88歳のワイン

出っぱなし

88年後に流れる神の血

 ワインには賞味期限というものはない。

 それ故に、10年、20年前のワインなど、ざらにある。

 中には、88年前、つまり88歳のワインも存在はする。


 長期熟成向けのワインは当然あるが、ほとんどのワインは早く飲むタイプが多い。

 88歳になるまで生き残るワインなどほんの一握りだ。


 正直、美味いか不味いのかは、分からない。

 枯れ果てて水に戻ってしまっているのか、保存状態が悪くて酢になっているのか、はたまた驚くべき感動があるのか、それは神のみぞ知る、だ。


 僕は拙作『神の血に溺れる』の中で、フランス、ブルゴーニュの老舗ワイナリーを訪れたことに少しだけ触れた。

 その時に、ワイナリー見学をした。


 老舗ワイナリーには、ワインを大量に保管する地下セラーを保有していることもある。

 地下は薄暗く温度や湿度が地上よりも安定していて、ワインの保存に適しているからだ。

 その中には大量のワインボトルが積まれ、まるで迷宮ダンジョンのようになっている。

 案内がなければ迷ってしまうことだろう。


 この時に、古い時代のワインの保管されているエリアを案内された。

 そこには、50歳を超えるワインも平気で置いてあり、ほんの数本しか無い100歳を超えるワインもあった。

 88歳のワインも置いてあった。


 僕はこれまでに、50歳になったワインを飲ませてもらったことはある。

 

 1966年 シュヴァル・ブラン


 という、知る人ぞ知るワインである。


 もちろん、僕は自腹で買うことができるほどの富豪ではない。

 ほんの一口おすそ分けしてもらっただけだ。

 

 そのお味は美味い不味いというものではない。

 時を飲むという贅沢を味わっただけだ。


 もしも88歳まで生きることができれば、88歳の神の血を飲んでみたいものだ。

 その頃の世界はどうなっているのだろうか?


 ワインにはそのような想像をかき立てるロマンがあるのだ。


 ちなみに、今年の88歳のワインをオンラインショップで見つけた。


 1934年 シャトー・マルゴー


 そのお値段、50万円を越えていた。(笑)

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88歳のワイン 出っぱなし @msato33

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