第38話 心の故郷ベイストック
「クレイア殿、一体どうしたんですか? やはりあの
「いや、違う。そうじゃない」
一息付いた目の前には、砂と埃に塗れた石門、ベイストック共和国の首都【ベイストック】に入れる巨大な門があった。
内外へと人々が行き交うも、そのほとんどがNPCである。
しかし、その中にはこの【アース・レンド】の降り立ったばかりの
「ただちょっと、驚いただけだ」
「…………
ユーリは訝しみながら初期装備状態の
右も左も分からない初心者でありながら、そこらに徘徊する低レベルのモンスターと戦い、僅かながらの経験値を得る。
まさにフィールドに出た初心者が取る行動をしていた。
「奴等は何が楽しくてモンスターを狩るんですか?」
どうやらその行動を不思議に思っているようで、改めて冒険者の存在が【エンファン】にとって何なのか考えてしまう。
いやまあ、初心者はただのレベル上げをしているだけだけど。
「彼ら冒険者は…………」
設定的には根なし草
というやつだ。
特定の職に就いていないとか、何かしらの集団や組織に属していない流れ者の総称が【エンファン】世界でいう冒険者だったはず。
「時には国の軍事作戦に参加する傭兵、民の依頼をこなす便利屋、未開の地を冒険する探検家、遺跡を巡るトレジャーハンター、強敵に挑む
確かそんな感じなことがネット辞典に書いてあった。
こうして語ると本当に色々やる人達だったんだとしみじみ思う。
「とすると、今そこでモンスターを狩る冒険者がモンスターハンターを生業とする者ですね」
「あ……、うん、まあ…………」
完全に別ゲームで存在するタイトルまんまの表現だが、周辺でモンスターを狩る
マジでただたんに経験値稼ぎをしているだけなのだ。
RPGといえばレベル上げであり、半ば脊髄反射のようにモンスターを倒しているにだけ過ぎない。
つまり、レベル上げというのはそれだけで楽しいのだ。
「さっきの冒険者に限らず、奴等と距離を取っているように見えますが、やはり何かあるのですか?」
目聡いなユーリ。
確かにフィールドに存在する岩のオブジェに隠れるようにベイストックを眺めているのは認める。
だがしかし、本当の理由をユーリには言い辛い。
あの
キャラメイク自体は容姿体格を色々細かく設定できるが、細部まで瓜二つなケースは珍しいし、例えいたとしてもサーバーも多いことから出会うことはまずない。
極めつけはプレイヤーウィンドウで表示された名前。
【エンファン】における自分の名前、
ヒューマ族の女戦士、グリエダだった。
どういう原理か知らないが、この世界に自分が作成したアバターが存在している。
しかも、向こうは今の自分と違ってインフレステータスやチートスキルは有していないようだ。
完全にサービス初期のプレイヤーと変わらない状態である。
「あの冒険者、グリエダと長くいると良くないことが起こる」
「そうなのですか? あまり禍々しい存在には見えませんでしたが……」
ユーリの言うことは正しい。
普通に見ればただの低レベル冒険者だ。
しかし、あれは間違いなく自分自身なのだ。
そもそもこのゲームに似た世界は【エンファン】に【エンファンⅡ】成分が少々交ざっている状態で、何かする度に【エンファンⅡ】要素が追加されていっている。
なので自分自身と接触し続けるとどのような不具合が生じるか分からなく、また世界観がぶっ壊れる自体に進行したらたまったものじゃない。
いきなり介護が必要なエンドコンテンツが始まったら精神的に死ぬ。
禿げる。
「いや、ここは慎重にいきたい。
「もとより冒険者は好かないので問題ありません。何なら今ここで殺――――」
「それはやめろ」
相変わらず血気盛んなユーリだ。
暴力はすべてを解決するといった狂人具合は一生治らないのだろう。
「あまり人目に付きたくない。視覚遮断魔法をかけてベイストックに入るぞ」
「御意のままに」
なんだよ御意にままにって、仰々しいな。
私に忠誠誓いすぎだろ、別にいいけど。
とりあえず自分とユーリに視覚遮断魔法をかけてベイストックへと移動する。
途中、見覚えのある幾人もの
全員、サービス開始時にフレンドになった
今は遠く懐かしい、ゲームを始めた頃に一緒にパーティーを組んで冒険した仲間達。
思い出の情景と共に、胸の奥底から熱い何かが込み上げてくる。
しかし――――
ほろ苦い記憶は、そのまま心の奥に仕舞っておくものだ。
もしかしたらこの世界、
【エンファンⅡ】の世界観、十四の平行世界の中の一つであり、大きな幽災の度に平行世界が統合されるような設定なのかもしれない。
その引き金が、もう一人の自分との出会いやフレンド達との接触だったらたまったものではない。
もうハイエンドコンテンツの介護はこりごりだから。
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