第37話 ドッペルゲンガー


 つい冒険者プレイヤー発見と喜びの余り叫んでしまったが、どうやらソロでトカゲのモンスターと戦っているようだった。


「っち、冒険者風情が。そのまま死ね」

「…………ユーリ、口が悪い。慎め」

「はっ。申し訳ございません」


 前世というか【エンファンⅡ】の設定上ゆえか、冒険者属性の人間に対して憎悪を向けるユーリを窘める。

 マジで放っておくとプレイヤーキルPKしかねないから恐ろしい。

 しっかりとしたモラル教育が必須なところが今後の課題である。


 いや、しかし――――


 あの冒険者プレイヤーが戦っている光景が、


 懐かしい!!


 ベイストック共和国から始めた初心者はとりあえず街をノース・オウストルグ出てからレベル上げするのがセオリーだ。

 つまりモンスターを倒して経験値稼ぎをするというRPGの王道的行為をするのだが、懐古厨である私の胸にジーンとする光景なのだ。


 まだ右も左も分からず、目の前のモンスターを倒してレベルを上げる。

 たったそれだけの行為なのに、レベルが一つ上がっただけで嬉しかった。

【エンファン】の武器や防具はレベルによって装備ができるできないがある。

 レベル3から装備できるものは、初期状態のレベル1では装備できない=強くなれない。

 だからレベルが一個でも上がると何が装備できるか、武器防具屋によく通ったものだ。


 目の前の 冒険者プレイヤーはそんな古くて懐かしい、宝石のようにきらきらした記憶を思い出せてくれた。


 ――――が


 絶賛、トカゲモンスター相手に苦戦中、もとい死にそうだった。

 

「ああ、レベルは6か」


 よく見たらその冒険者プレイヤーのレベルは6でクラスは戦士。

 ちょっとレベルが足りないので、この辺のトカゲには苦戦するかもしれない程度だった。


「ん……、あれ?」


 じゃあモンスターのほうはということで調べて見ると『計り知れない強さだ』というシステム表示が出る。


 あ! こいつノマドモンスターNMのリーピンリザードだ!

 レア装備の【リーピンブーツ】防御力3 DEX+3 AGI+3 というアイテムを落とすトカゲで、レベル7から装備できるやつ。

 低レベル装備でありながらレベル75まで使えるし、アームズスキルASの着替え用装備として人気の高いアイテム。


 当時の競売マーケットでの価格は確か――――


 100万ゴル以上はした。

【飛行大艇パス】が2枚も買えてしまう。

 ちょっと【エンファン】の金銭感覚を伝えるのは難しいけど、100万あれば当分金策しなくて済む。


 ちなみに金策とは――――


 いや、やめよう。

【エンファン】のプレイ時間の大半は金策だったなんて夢も希望もないしね。


「クレイア殿。私は構わないのですがあの冒険者が死にそうです」

「あ――――」


 つい物思いに耽ってしまっていた為、冒険者プレイヤーのHPがレッドゾーンに入っていた。

 このままではトカゲに撲殺されてしまう。


 だが、目の前の冒険者プレイヤーは厳しい状況だというのに戦うのをやめなかった。

 必死に剣を振るい何とか相手を倒そうとしている。

 多分、勝算があるのだろうが、きっとそれは片手剣のアームズスキルAS、ダブルブレードという2回攻撃を放てるTPがもう少しで貯まるからぬい違いない。


 まあ、読んで字の如く多段ヒット系のアームズスキルASだが、いかんせ片手剣の2回攻撃だ。


 単純に攻撃力が低いのだ。


 片手剣はD値というシステム上の攻撃力がね。


 もう一方で盾を装備する為の武器ともいっていい。

 まさにパーティーの壁役、タンク職、聖騎士様専用の装備品といっても過言ではないのだ!


 ということで決死のアームズスキルASのダブルソードが放たれるも、やはりリーピンリザードを削るきることは出来ず、冒険者プレイヤーの運命が風前の灯火となった。


「仕方ない」


 私は対象に冒険者プレイヤーを選び回復魔法を詠唱する。

 もちろん強力な上位回復魔法なので、低レベルの冒険者プレイヤーならあっという間にHP上限まで回復するだろう。


 本来ならもっと下位の回復まほうでも良いのだが、これにはわけがある。

 MMORPGでお馴染みのヘイトという敵愾心が関係するのだ。


 分かりやすく言うと怒りゲージみたいなもので、モンスターは攻撃してくる対象をヘイトリストに乗せ、ヘイトゲージが収まるまで、つまり怒りが収まるまで攻撃してくる。

 そんなモンスターからヘイトを奪いたい為に挑発スキルがあるのだが、それは戦士の専売特許で、無論のこと私も使えるのだが、別にそれでなくてもいい。


 ヘイト1位の対象者を大回復させる。

 そうするとモンスターも『なんで回復させるんだバカヤロウ!』となって、回復した相手にヘイトが移るのだ。


 目論み通り、リーピンリザードはヘイト対象を私に切り替え攻撃してきた。

 しかし、まったく痛くも痒くもない。

 こいつのレベルは10~11程度のクソ雑魚ノマドモンスターNMだ。

 

「クレイア殿。私がやりましょうか?」

「いや、大丈夫だ。ちょっと戯れているだけだからな」


 トカゲを観察しながらユーリと話していると、寸でのところで命が助かったプレイヤーがこちらに向かってきた。


「あ、あの……、助けていただいてありがとうございます!」

「いや、気にすることは――――


 私は瞬時にリーピンリザードを倒し【ターボスプリント】を発動、脱兎の如くその場を後にした。


 だってそのプレイヤー、

 サービス開始時の私だったんだよ!?

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