第36話 プレイヤーだ!
雲一つない晴れ渡る空。
昨日は旅の定番、焚き火を囲んだキャンプを楽しめた。
調子に乗ってもの凄い量のワインをつくってしまい、そのすべてを呑み尽くしたのだから、私もユーリもなかなかの酒豪と言える。
オオナマズが旨すぎたのもいけない。
途中の記憶が曖昧で、ユーリが何やら深刻な顔で話していたが、まあ酒の席だし適当に答えてとにかく呑んだ。
気付けば朝という定番の展開で、うっかり始発電車そろそろかなとまで考えていたのは内緒にしよう。
「……昨日は、色々と申し訳ございませんでした」
「気にするな」
ユーリは青い顔している。
それが二日酔いなのか気まずいのか見当も付かなかったが、そもそも昨晩の記憶が曖昧なので何も言い様がなかった。
「少し飲み過ぎましたが…………、でも、ありがとうございました」
「では次はもっと呑もうか」
「お好きなんですか?」
「嫌いな奴がいるのか?」
酒は社畜の友。
仕事終わりのビールは最高だ。
最近は手っ取り早く酔えるストロング系を呑む奴も多いが、やはりそこはビールに限る。
「そう返されると、答えは否でしょうか。ただ私は一人で呑むことが多かったので、誰かとああして呑むと、楽しいものなんだと実感しました」
「そうだな。例えば性癖――――、同好の士と酒を交わし合うのは最高だ」
うっかり口が滑りそうになった。
オタク仲間と集まって推しや性癖について語り合う酒の席は最高かよ、とまで言いそうだったぜ、ふー。
「同好の士、ですか?」
ユーリの目線がどういう意味かと問いかけてくる。
オタク文化的なことどう説明すべきか…………。
昨日の会話のほとんどを覚えていなのだが、何かしら闇を抱えている人間であればあるほど沼に落ちやすい。
せめてここにアキバがあれば一日でオタクに染め上げてやれるのに。
「コスプレだ」
「こすぷれ?」
おいおい私は何を言い出すんだ?
確かにユーリならばメイド服とか似合いそうだし、何ならあのアニメの学生服とか無理矢理着せてみたいが。
いや待て。
下手に戦闘狂のユーリにメイド服を着せてアキバに連れてったら、そこでメイド戦争を起こしそうな気がする。
現実にとんとことんやちゅきちゅきちゅきちゃんはないのに、アキバを地に染めようとするかもしれない。
現代日本に戻れる力がなくて良かった。
「いや、気にするな。また今度、教える」
「そうですか。それはまた楽しみが増えますね」
本当は溜息の一つでも吐きたかったのだが、微笑を浮かべるユーリに免じて飲み込んでやろう。
なかなか可愛らしい笑顔じゃないかこの野郎。
あなたの笑顔にランデブー。
何を言ってんだ私は。
「また戻って参りましたね」
「ああ」
下らない妄想をしていたらようやく、荒野の風景が広がるノース・オウストルグへ戻ってきた。
前回は段差で遮られた場所をショートカットしようとして、ギミックが存在しなく佇んでいたら、ユーリが力業で飛び越えてしまったが為の苦難が待っていた。
考えてみればそのギミック、一度過去エリアに飛んでクエストをクリアしないと発生しないものだったのだ。
だから今回は、ちゃんと遠回りしてサウス・オウストルグ経由でベイストック共和国首都に入ろことにした。
「ユーリ。今後は謎の何かがあっても触るなよ」
「了解しました」
多分、この先にはもう何もないはずだ。
とはいえ釘を刺しとかなければ何をするかわからない。
人間の心を取り戻したはずだから、いきなりNPCに攻撃を加えることはしないと思うが。
「そういえば、あの亀達を攻撃した理由あったのか?」
「蛮族を攻撃するのに理由はないです」
断固とした口調で言うユーリ。
前言撤回。
少なくとも獣人に対しては悪・即・斬のようだ。
戦闘狂は未だここに健在なり。
だったら見映えも兼ねて、ビキニアーマーとかのほうが目に優しいかもしれない。
豊満な身体を鮮やかな返り血で染め上げる美人なんて素敵すぎる。
「人間に危害は加えるなよ」
「了解しました」
「街中で暴れるなよ」
「…………そんな酔狂な人間に見えますか?」
ユーリはさも心外そうな顔を浮かべるが自業自得だろう。
単独行動はなるべくさせなようにしないと何をするか分からない。
「もうサウス・オウストルグに入った。大人しくするんだぞ?」
「自重します」
大事なことなので二回言うと、真摯に頷くユーリだったので、ひとまず安心する。
相変わらず殺風景な荒野の風景は変わらないが、間もなくベイストック共和国首都入口だ。
街に入ったらさっそくフリーギルド設立に動こう。
多分、大統領府あたりで聞けば設立の方法も教えてくれるだろうし。
と、フリーギルドについてあれやこれや妄想していた時だった。
どこから、かけ声と剣の振るう音がする。
何気なくその方向に目を向ければ、
「ま、まさか…………」
システムウィンドウから対象を選び調べる。
ここからは若干離れているが、それでも人影とモンスターらしきものが確認できた。
「やっぱり」
そこには装備欄が表示され、その詳細も確認できる。
NPCを調べてもこんな画面は表示されない。
剣を振るう人間の名前も出る。
――――ということは、だ。
「
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