第34話 待望の水着
さて、無事ユーリを取り戻したので早々に現代へ帰還するとしよう。
この過去エリアのオワスプ沼にも現代へと戻る『深淵の口』はある。
サブクラスを狩猟士に変更し、広域スキャンを開始。
「……結構近くにあったな」
これぐらいの距離ならマウントを呼び出さなくてもいい。
ユーリと二人で歩くとするか。
普段は亀がうろうろしているはずのエリアも、相当数を一掃してしまったので閑散としている。
「ユーリ、お腹減らない?」
「いえ、別に」
唐突な感じになってしまったがプロディガルシア以来、何も食べていないのでお腹が減っていた。
「ユーリ、お腹減らない?」
「……いえ、とくには」
え、何で減ってないの?
こっちの世界に来たばかりだからか?
というかどういう原理で違うゲームのキャラがここにいんの?
あ、それを言ったら私はどういう原理でここにいんだ?
「ユーリ、お腹減らない?」
「…………はい」
大事なことだから三回言った。
お腹が空きすぎて思考がおかしな方向へ逸れたが、チートインフレステータスでも腹が減るのは仕様上の欠点だろうと思う。
最強にするぐらいなら生物の基本も省けよ。
既に最強の時点で生物の枠を逸脱してんだからさ。
しかし、まあ、食の楽しみが失われなかったのは有り難いものだ。
「何かリクエストでも?」
「好き嫌いはありませんので」
ふむ、無難な答えだ。
そうこうしている内に深淵の口まで辿り着いた。
この不気味なオブジェに触れれば現代へと戻れるので、まずはユーリを先に送ってから自分も後に続く。
視界が暗転した先は、現代のオワスプ沼だ。
戦前と変わらずじめじめして天候が悪いエリアだった。
当然、こういうところには沼がある。
少し南に下れば大きく開かれた場所があり、そこに目当ての沼があった。
「釣りは得意か?」
「やったことはありません」
優秀な軍人の家系だろうからそういうアウトドアはやらせて貰えなかったらしい。
「私が火を起こすから沼で魚取るんだ」
「…………は! え? それは?」
「釣りができないなら素手で取るしかないだろう?」
「そういう、ものなんでしょうか?」
「そういうものだ」
アイテム収納から薪を取り出して焚き火の準備をする。
そしてシ=ユノ式豪華トイレを設置、原木を取り出して即席の椅子として加工、ついでに横になれるようワラ(バード用)を敷き詰めた。
「ここではナマズが取れる」
「……了解しました」
気が進まない顔をするユーリが沼地に足を入れる。
「待った」
「なんでしょう?」
すぐさま素材を取り出し、イメージ合成を開始。
成功エフェクトと共に出来上がったのはビキニタイプ『水着』だ。
「装備が濡れてしまうから着替えろ」
「いえ、このままで結構です」
「着替えろ」
「…………了解しました」
再度の押しに屈服したユーリが諦めの境地で水着を受け取り、シ=ユノ式豪華トイレに入っていった。
これは決してパワハラでもセクハラでもない。
沼地に入ってオオナマズを取るのだから、重い装備類を脱ぎ捨てないと機敏に動けないだろう。
極めて合理的な判断と言っても過言ではない。
さて、着替えている間に下拵えの準備をしようか。
オオナマズの臭みを取る為の塩や香草を用意する。
調理方法は丸焼きでいいだろう。
「お待たせしました」
着替え終わったユーリが出てきた。
ふむ、とても良い。
これは眼福ものだ。
若干の照れ具合を浮かべるユーリの表情も良い。
「本当にこのような格好が必要なのでしょうか?」
「動きやすいだろ?」
「まあ、確かに動き易いのですが、こうも露出が多いと防御の面で不安が」
「今の私達を害する敵なんて、過去でも現代でもどこにも見当たらないさ」
周辺の亀どもが遠くからこちらを伺っているのは知っている。
もちろん、ユーリも気付いての発言だろうが、この辺のモンスターレベル帯は15~29という超クソ雑魚だ。
まったく問題にならないのだ。
「鎧を着たければオオナマズを取ることだな」
「…………了解しました」
ずぶずぶと沼地へ入り込むユーリを横目に食卓の準備をどんどん進める。
『エンファンⅡ』の果実、ハイランドグレープを使った飲料を合成するのだが、使う結晶は水結晶か闇結晶かで完成が違ってくる。
水結晶を使用すればただのグレープジュースだが、闇結晶を用いればワインとなる。
多分、闇結晶は『腐』の属性があることからそうなる仕様なのだろう。
当然、我々は大人なので酒をいただくとする。
「クレイア殿、お待たせしました」
酒が飲めるとあってかなりの量の合成に夢中になっていたら、任務を遂行したユーリが二匹のオオナマズを両手にぶら下げていた。
なかなか仕事が早い。
特に谷間に水が滴る感じも大変よろしい。
「よくやった」
「もう着替えても?」
「ダメだ」
「なぜ!?」
酒の肴に堪能したいからだよ、とは言わずに料理方法をすぐ教えたいからと水着のままにし、魚の捌き方に臭みの取り方を教え調理を任した。
つくったばかりのワインを嗜みつつ、オオナマズが焼けるまでユーリにも飲まして酔わせ、何か色々喋ってたが適当に聞きながらオオナマズを堪能した。
控えめに言って、
その晩はすごく楽しい晩ご飯になった。
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