第33話 最強の一人軍隊


 勘違いしないで欲しい。

 私は別にいつも水着のことを考えているわけではない。


 ただ、その、何て言うか、ユーリは三十代後半という大人の色気が極まっている年齢でありながら見た目は二十代。


 瑞々しい肢体に引き締まった筋肉なので、その美体を拝んでみたいというのが人の常ではないか。


 その肉体美が亀のゲームで粉々に破壊されては、クッコロ騎士より悲惨な状況になると思うと居たたまれない。


 ――――それにしても。


 湯水の如く現れる亀軍団が行く手を阻んで鬱陶しい。

 リュッケンベルグのアウロラ有志連合軍は何してんだよ。

 ここらの戦線担当はベイストック共和国軍だというのに嘆かわしい。

 

 亀に落とされてんじゃないのここ?


 その間にも立ちはだかる『ヘルムート突撃兵団』を通常攻撃で粉砕し、後続に控えていたであろう『武装親衛隊エルンスト旅団』も撃滅、援軍に現れた二個兵団、『ヘルマン突撃兵団』と『ヨーゼフ装甲兵団』を蹴散らして、ようやくリュッケンベルグからオワスプ沼へと辿り着く。


 ここまで来る間に遠目でアウロラ有志連合のベイストック共和国NPCを見掛けたが、小規模編成の偵察部隊なのだろうか、戦いに加わろうとはしなかった。


 まあ、いたところで邪魔なだけだしな。


 こちららとしても極力過去のNPCと接触したくないし、本来冒険者プレイヤーがすべきイベントやミッションを改変したくない。

 とっととユーリを連れ戻して現代に帰らねば。


 アウロラ有志連合がこのエリアを制圧していれば、その前哨基地となる場所がそろそろ見えてくるのだが、やはりそこはケ・ローネ兵団の抑えられているようで、不気味な旗が掲げられていた。


 駐留しているのは『武装略奪隊ユルゲン師団』だろうか、確かこいつらも普段はストロベリー耕地にある芋虫ダンジョンが管轄なのにここにいる。

 ちなみに師団長は亀王の第一継承権を持つ姫らしいのだが、見た目が亀なのでさっぱりわからない。


 こいつらも私を見るなり突撃してくるので、さくっと通常攻撃で薙ぎ払った。

 何度も言うようだが、ここで安易にスキルは使わない。

『神々の御礼』で勝手にスキルが開発されてしまう手前、これ以上自分がバケモノになるのは勘弁してもらいたいのだ。


 それにしてもユーリを取り戻す過程で、相当数のケ・ローネ兵団の戦力を削ってしまったような気がする。

 実に八個兵団、数千の兵力を壊滅に追いやったと思うが、まあ平気だろう。

 ゲームのほうでもそれぐらいの敵を倒してようやく発生する『金剛王撃破』イベント戦もあるのだから許容範囲だな。


 しかし、ここにもユーリを攫ったバルタサル旅団がいないとなると、隣接エリアである亀の本拠地『ズンブブ』に逃げたに違いない。


「…………面倒だな」


 本拠地にいる亀の王、『金剛王ル・ド』のクラスは回復魔法士の為、削っても削っても回復されて持久戦となった記憶がある。

 攻撃力こそたいしたことないだけにそのしぶとさがダルいのだ。


 気乗りしないまま亀の首府ズンブブへと進入、『親衛略奪隊ヴォルフガング旅団』が待ち構えていたが、大地をかち割る衝撃で吹き飛ばし、最奥へと進む。

 各兵団の残党がちょろちょろいたのだが、私を見るなり武器を置いて降伏の意を示してきた。


 ――――まあ妥当な判断だ。


 こちらとしても弱い者いじめはしたくない。

 ズンブブ深層部、最終防衛ラインを固める『武装親衛隊クルト師団』が最後の兵団となるが、まだ戦意喪失していないようなので仕方ない。

 軽く捻ってやり、防衛ラインを突破する。


「ここまで来たのにユーリいないじゃん」


 とうとう最深部のズンブブ大伽藍だいがらんという宗教的象徴の間まで来てしまった。

 

 と、ここでようやく石化しているユーリを発見。

 その隣にいるのはバルタサルのようで、どうやら金剛王への献上品として持って来たような感じである。


 ――――いや、献上されちゃ困るな。


 金剛王ル・ドと側近もいて、相手方は決死の形相(亀の顔でもなんとなく分かる)で対峙しているようだけど、こちらは興味なし。

 聖剣を思いっきり地面に叩き付け、衝撃波で相手を吹き飛ばすと同時に、ユーリを素早く確保。

 石化解除魔法を詠唱し、ユーリの石化を解く。


「…………面目次第もございません」

「え? 自覚あるの?」

「石化中でも朧気に意識がありましたので」


 えー、石化中でも意識あるって辛みじゃん。

 バルタサルに叩き割られた人間、さぞ恐ろしかっただろうに。

 ちょっと余興でするにはがすぎるだろう。


「個人的な恨みはない。だが、これも戦いの常だ」


 瀕死のバルタサルに石化魔法をかける。

 そして自身がしたこと、同じように石化したバルタサルを叩き割った。

 金剛王も立ち上がったようだが、おそらくHPゲージは真っ赤っかだろう。

 必死に回復魔法をかけている。


「さて、帰るか」

「いいのですか?」


 多分、この問いは、殺さなくていいのか、だろうが、


「戦争しているのは私じゃない。そして目的も達成された。これ以上は無意味だろう」

「了解しました」


 まあ、きっとそれに、


 絶体、最初に手を出したのはユーリのほうだと思うから、正当防衛を主張できるのは相手のほうなので、こっちは外聞が悪すぎる。


 とりあえず、さっさと逃げよう。

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