第31話 そういうキャラだった?


 とうとうここまでやってきた。

 オクンスト高地を抜けた先のノース・オウストルグ。

 草木がほとんど生えず、岩と砂しかない荒野。

 深い渓谷に架かる橋に、岸壁から降り注ぐ絶景な滝。

 それらの風景を見て、元ベイストック国民であった経緯から、ついつい目元が潤んでしまった。


 ああ、懐かしのベイストック。

 新米冒険者だったあの頃。

 戦闘にも慣れずにうっかりやられて辻蘇生魔法をかけられた思い出。


 それをこうして臨場感溢れるVRのように眺めることが出来るなんて。


「感慨深い……」

「この荒野が、ですか?」

「寂れた感じが良いんだ」

「成る程、クレイア殿は人間達が絶滅したような環境が好みなんですね」

「どうしてそんな曲解する?」


 まだバハムートの洗脳が解けてないのか、人類に対する偏見を持っている気がする。

 やはりここは水着を着せて羞恥心を与え、人としての心を取り戻させたほうがいいな。


「ところで我々はどこへ向かっているのですか?」

「ベイストック共和国だ」

「…………聞いたことありませんが、エレウテリア都市同盟にまた新しい国が加わったということですか」


 嘆息したユーリの瞳に闘志がみなぎった。

 確かに君は配下の第Ⅶ軍団を率いてエレウテリア都市同盟軍と激戦を繰り広げたプレイヤーの敵だったけども。


「ユーリ。お前はもうエレウテリアとは関係ない。ここは以前いた世界とは違う」

「そうなのですか?」

「今後は好戦的な言動や行動を慎め。愛槍も私が許可した場合のみ振るうこと」

「承知しました」


 しかし従順だなコイツ。

 あんだけ狂気に満ちたことしたのに、この変わりようなんだ?


 まあ、いい。

 とりあえずベイストック共和国の街へと急ごう。

 ただ、ここのマップ、そこまで行くのにノース・オウストルグからサウス・オウストルグを経由しないと街に入れないという不便さがある。

 理由はまさにが示す通り、断崖絶壁が街へと行く道を阻んでいるからだ。


 ということでバードから降りてグラグラ(グランバードの名前)を帰還させる。

 もちろんこの子も空を飛べるフライングマウント属性を持っているが、いつどこで誰が見ているか分からない。

 ここ『エンファン』世界では騎乗バードが飛ぶことは有り得ないので、そういう世界観をぶち壊す行為は慎まなければならない。


 自分のチート行動によっての歴史が変わるのは確定的に明らかだからだ。


 実際あったからこそ、これ以上悪化させて後続の冒険者プレイヤーに迷惑をかけないようにしなければなるまい。


 なので、自力でこの崖に登る!


 が、安心してほしい。

 特定の条件下であれば、この段差をワープできるのだ。


「どちらへ行かれるのですか?」

「崖の上にベイストック共和国の首都、ベイストックがある」


 とユーリの声に答えつつ、崖下の『段差飛び越えポイント』を探す。


 探す。


 ――――探す。


 あれ?


 …………なくね?


 若干、思考がストップしている間に、


「クレイア殿、どうしましたか? 早くこちらへお越し下さい」


 なぜか頭上からユーリの声がするので見上げてみれば、


「…………なぜお前が崖上にいる?」

「このような高所、クレイア殿も造作なく飛べましょう?」


 いやいや、お前マジ何やってんの?

 せっかく世界観ぶち壊す行為を慎もうとしてんのに勝手に崖上へジャンプすんなよ。


 だがまあ、仕方ない。


 本来ならワープ出来るはずのギミックがないのだから超法規的措置だ。

 一応、自身に視覚遮断魔法をかけてから思いっきりジャンプしてみる。

 軽々と崖上まで飛び、そのまま着地と同時に視覚遮断魔法を切る。

 これで誰かに見られてもごまかせる完全犯罪成立だ。


 それにしても崖上とあって気持ちの良い風景だった。

 勢いよく流れる落ちる滝なんて正に明光明媚に相応しく、観光名所にしたい気持ちにもなるだろう。


 と、またも意識を散らしていたら遠くからユーリの声が聞こえた。


「クレイア殿! 正体不明の蛮神がおります!」


 え、なに?

 ここでまだわけわからん敵出るの?

 初期エリアで低レベルのモンスターしかいないのに、そんなのいたら初心者プレイヤー殺しやん。


 もし、そんなのがいたら大惨事だ。

 急いでユーリのいる現場へと駆け付ける。


「…………こいつか」


 大きなしかないモンスターの名前は『深淵の口』、追加ディスク第四弾『永狂彼誰神徒アウロラ』で実装された、過去やパラレルワールドに行けるオブジェだった。

 ただ、ここに深淵の口があっても不思議ではない。

 そもそも最初の時点で倒したラスボスがパラレルワールドのボスだったのだから整合性は取れている。


 とりあえず用はないので、目と鼻の先にあるベイストック共和国の首都へ行くとしよう。


「…………どうやら害はなさそうですね」


 そうそう害はない――――


「ク、クレイア殿!!」


 はずだったのに、あろうことか深淵の口に触れたユーリは、大きなその口に吸い込まれていってしまった。


「えー…………」


 何でお前そんな迂闊なの?

 好奇心旺盛過ぎない?

 もうちょっと警戒しろよ?


 盛大な溜め息を吐き出す。

 深淵の口は過去に繋がっている。

 あんなインフレステータスの狂人を放っておいたら、過去で暴虐の限りを尽くして現代に多大な影響を与えるのは間違いない。


 ――――連れ戻すしかないか。


 再度のながーい溜め息を吐き出してから、ユーリを連れ戻す為に深淵の口へと触れた。

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