第29話 なんでお前がいんの?
小鳥の囀りが耳に優しい。
髪を撫でる柔らかい風には、どこか懐かしい香りが含まれている。
「なんて、静かで平和的な光景なんだ……」
ここはベイストック共和国から北側に位置する草原地帯で『オクンスト高地』と呼ばれている。
新米の
最初に来た
実際は、他の国のほうが木々も豊富で生命に満ち溢れているのだが、ベイストック共和国周辺は荒野ばかりなので、初めてまともな緑を見て感激するのだ。
更に
あ、ちなみにこれ、
「なんか…………、色々な要素が混ざってしまった気がする」
その転送装置へ続く階段に腰をかけた私は、疲れた目で空を見上げた。
――――大要塞バハムート・進撃編第4層はクリアした。
なぜか『エンファン』世界で世界観が違う『エンファンⅡ・旧生ver』から『エンファンⅡ・新生ver』の流れを再現した展開になり、『エンファン』追加ディスク第二弾、死狂禁断縛鎖アマネシアで共に戦うNPCと協力してネーデルを倒してしまった。
最後の瞬間、プリシアの神具技が炸裂したが、あと一歩削りきれずに天地瓦解が発動してしまった。
テンプルラウンドはリキャスト待ちで使えなく、例え使えたとしても時間切れは無敵貫通の即死ギミックだった。
ただまあ、ソシャゲの『DGO』技を結構使っていたし、戦闘の最中にもNPCがスキルや神具技を発動していたから、私も同じくあれを使ったのだ。
「最果ての星、希望の始まり。どれほど遠い旅路の向こう、楽園は運命に呼ばれた者のみに扉を開く――――『
味方全体に無敵貫通無視の無敵を付与するという超ぶっ壊れスキル。
こんなスキル技が『エンファンⅡ』にあったら、あらゆるハイエンドコンテンツを崩壊させてしまうだろう。
とはいえ、今回はこれのおかげでネーデル戦を終わらせられた。
そして、一緒に戦ったNPC達と勝利の美酒を分かち合う前に、魔法剣士の専用スキル『連続魔法』(60秒間詠唱なしで魔法を放てる)を発動し、各NPCをホームポイントへ強制転移させる『エアストⅡ』を連続詠唱。
とりあえず、何か色々言われる前に帰し、自分にも効果対象本人のみの『エアスト』をかけるが…………、
これは不発に終わった。
多分、この世界でホームポイントを設定していない為なのだろうが、大変に不便である。
なので、他の転移魔法『テレポート・ノトス』を詠唱した。
これはアース=レンド各地にあるエテルネルの転送装置に転移できる魔法で、死狂禁断縛鎖アマネシアが実装されているのだから、その装置も解放されていると見越して使ってみたら、
――――無事、転移に成功したという経緯でここにいる。
しかし、だ。
私はここで大きな溜息を吐き出した。
ようやく訳の分からん連続BF(バトフィールド)戦を終わらせて、こうして平和な光景を謳歌できる場所へとやってきたというのに。
「我が力、今度は御身に捧げるべく参りました」
なんでお前がここにいんだよ! ネーデル!!!
どういうわけか転送先に彼女がいて、しかも地に手を付け頭を垂れているという始末。
いやマジでわけわからん、誰か説明してくれYOG・SHIDA。
「古き真名はユーリ・ダンテス。『ネクロス帝国』の技術を継承する『ダンテス家』の末裔。以後、お見知りおきを」
あー、確か『旧生エレウテリア』でそんな設定だったなー。
って違う、違う。
お前がいると世界観変わっちゃうから、設定崩壊しちゃうから。
ちゃっかりパーティーメンバーにも入ってるし、しかも、HPがネーデルの時と一緒だし、最初の私を凌駕したステータス誇ってるし、『エンファン』世界にインフレチートステータス持つ人間二人になってしまったし。
「して、御身の名はなんとお呼びすれば?」
こちらを見上げる顔。
邪気が払われた清々しい顔をしている。
有り体に表現すれば、三国一の美人じゃないか。
「…………クレイアでいい」
「畏まりました、クレイア様」
「様はいらない」
「では、クレイア殿で」
なんか忠義心持たれちゃってるよ、ほんとマジでこいつどうしよ。
「こう言っては何ですが、クレイア殿は私の兄に似ております。姿形ではなく、その纏った雰囲気というところですが」
なにこいつブラコンなの?
あー、そーだそーだ、確かにそういう設定だ。
そんそもネーデルは兄の名前だったな。
待て。
そもそも私は女だぞ。
いや、でかい図体で割と勘違いされやすいと思っているが、男兄弟に例えるとは良い度胸してるじゃないか。
ちなみにそっちの趣味もないからな、勘違いするなよユーリ・ダンテス。
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