第28話 今は懐かしき古の想い出


 戦うことはいつだって苦しい。

 しかも、今回はあのバハムートが、アマネシアと融合してしまった。

 その凶悪で禍々しい姿に戦慄を覚える。


 転移の瞬間、は一人で戦うつもりだと思っていたが、どうやら戦いの場所を移しただけのようだった。


 ――――共に戦える。


 なぜだろうか、とは出会ったばかりだというのに、長い時間をかけて一緒にような気がする。


 そして、ここには仲間もいる。


 ラングドン枢機卿の本名はクリスティーヌ、古代種族エテルネルの生き残りだなんて言われても吃驚するけど、俺と同じで『虚無の闇』を除去し、人でなくなった存在だった。

 

 そういうことはもっと早く言って欲しいぜ。

 もっと色々と話し合えたのにさ。


 自警団に加わっていたエンリクスも古代種族エテルネルで、一万年もの間、アマネシアを倒すために『世界の終焉を告げる者人類悪』とどう決着を付けるか考えていたらしい。


 永遠とも感じる長い時の中、異空間で孤独に生きていたなんて、それが俺だったらどうしているか、まったく想像が付かない。


 ――――ただただ寂しいだけかも。


 もしそうなったとしても、幼馴染みのエルミナだけは一緒に付いて行くと言ってくれそうだ。

 この絶望的とも思える戦いの場にだっているんだ。

 

 もそう語っている。


 人間が本来持っている『虚無の闇』を無くせば人間は人間ではなくなる。

 人間でなくなった俺は、人の心が読めるようになった。


 誰が何を考え思っているのかが筒抜けなのは、結構うんざりすることなんだぜ?


 人間は建前ばかりだ。

 本音なんて聞くもんじゃない。

 ホント、人間の闇の部分をずっと見続けるなんて、アマネシアじゃなくても闇に落ちるってもんだよ。


 ただ――――


 前で静かにを捧げるの心は読めなかった。

 クリスティーヌも俺と同じで心で会話の出来るらしいが、首を振って答えている。

 っていうか古代種族エテルネルはみんな言葉じゃなくて心で会話していたらしいが、ま、今はそんなのどうでもいいさ。


 俺は武者震いのする身体に活を入れる。


「震えが止まんねえけどさ、なんか不思議だぜ。アンタと一緒だと笑えながら勝てそうだ!」


 そう言って、俺達とアマネシアの戦いの火蓋が切られた。


 案の定、神の力を見せ付ける相手は強力だった。

 魔法一つとっても即死級の威力で、発動の度に背筋が凍る思いだった。


 だが、


 その度に、


 その人銀色の英雄が立ち塞がり、盤石な盾として守ってくれた。


 際どい攻撃の際は、あろうことか俺をわざわざ抱えて(お姫様抱っこというやつ)回避し、またすぐにアマネシアの前へと連れて行く。


 ぶっちゃけ、戦闘中だというのに、


 ――――俺は赤面しちまったぜ、ちきしょう。


 アマネシアの度重なる猛攻に際して、俺とクリスティーヌは気付いた。


 その人銀色の英雄が、心の声で指示を飛ばしていたことを。

 多分、俺やクリスティーヌみたいに心が読めるやつにしか聞こえない声だ。


 そこからは戦闘がスムーズに行えた。

 あらゆる特殊攻撃のすべてはその人銀色の英雄が防ぎ、俺達はときたま舞い降りる眷属を倒すことに集中できる。

 

 今はもう、


 ――――攻撃の全部が読めるのだ。


 しかも、その人銀色の英雄が守る限り、後方支援のエルミナは全力で『神の歌』を熱唱できる。

 過去には聖歌隊として、今は吟遊士として、俺達に戦える力を施す。

 その歌を聴いた俺の攻撃速度は峻烈を極め、アマネシアへ徐々にダメージを蓄積させていった。

 天空より落下する巨大な剣には仰天したが、回避方法は理解している。

 再び現れた眷属も難なく討ち倒した。


 俺達にもいつの間にかその人銀色の英雄の力が宿ったらしい。

 強く想えば想うほど自己が強化され、技に磨きがかかっていくのを感じる。


 多分、いよいよアマネシアを追い詰めたのだろう。

 堪りかねたかのように吸収したバハムートの眷属を呼び出し、こちらから攻撃の届かない上空より苛烈な攻撃を仕掛けてくる。


 それでもその人銀色の英雄がいる限り、俺達にダメージはない。

 盤石な防御に守られる中、俺は確かにその想いを受け取った。


「星よ、陽よ、月よ、真なる形を輝かせ、九天をゆく道行きで、常世の闇を払い給いし、玉と霞に希の久遠へ導きあれ。星霜至る桃源鏡カタストロフィ


 クリスティーヌの力が俺に勇気を与えてくれる。


「我が女神アウロラよ、力を貸してくれ、月に請い願う、彼の者に力を、精神に鉄を、そして古代種族エテルネルの悲願を捧げよう。女神の無垢な力アーマスティリーノ


 エンリクスの想いが俺に力を与えてくれる。


 溢れんばかりの輝きに包まれた俺の右腕は、それを撃ち込む相手はまだかと急かしているようだった。

 

 ああ、すぐにぶち込んでやるよ!


 勝敗の分かれ目、運命の分水嶺。

 アマネシアも己の闇を振り絞り、天地を崩壊させる魔力を蓄積していく。


「閃け爆ぜろ!! 生きることは希望の光! 馬鹿げた悪夢から解放してやるっ!! これが人の想いの力だあああああああ!!!」


 膨大な光の奔流がアマネシアを貫く。


「俺式ファイナルアタック!!!!」


 闇そのものであるアマネシアに、人類の虚無すべてを抱え、常に驕慢、嫉妬、怯懦、無知、憎悪に満たされる身体に、女神アウロラの想い、信頼、慈悲、正義、勇気、希望のすべてを打ち込んだ。


 同じタイミングでアマネシアの魔力開放が発動し、想像を絶する破壊の衝撃が俺達を襲い――――

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