第27話 古代種族のエンリクス


 エンリクスはかつて一万年前に繁栄していた古代種族エテルネルであり、クリスティーヌと共にアマネシアと戦っていた人間だった。


 その戦いとは、古代種族エテルネルの民が理想郷の真世界へ行く為に、人類悪との融合、つまりアマネシアと一体化を望んだがゆえの最終戦争ともいえるものだった。


 人間が神々と肩を並べられるわけがないのに、よりにもよって古代種族エテルネルの民は【黄昏の神】、【死の男神】であるアマネシアと一体化し、全人類を真世界、つまり人類が人類でなくなる【理想郷】へと導こうとしたのだ。


 だがこれは、人類の滅亡を意味するもので、到底見過ごすわけにはいかない。


 エンリクスとクリスティーヌは、同じ古代種族エテルネルと敵対し、人類側に付いた。

 戦いは凄惨を極め、多くの仲間が犠牲になった。

 肩を並べてともに戦ってくれた多くの神獣もいた。

 神獣にとっても真世界とは、今の世界が別物に様変わりしてしまい、自らが激変してしまうということになる。


 互いの生存圏を賭けて激しく抗ったが、それでもアマネシアを倒せず【封印】することしか出来なかった。


 だが封印だけでは、いずれ復活してしまう。


 アマネシアは原初の神々の一人だ。

 人類の叡知だけでは封印という一時的な阻害だけで精一杯なのだ。

 

 封印だけでは、クリスティーヌと神獣の儀式によって、一万年後に復活することが分かっていたものの、対アマネシア戦で古代種族エテルネルの大半は滅んでしまった。


 そして古代種族エテルネルの民によって、現世に半ば転送された真世界ラ・タルで、エンリクスはアマネシアの封印による弊害で一人取り残されることとなった。


 あとはクリスティーヌに任せるしかなかったエンリクスは、一万年という長い時を過ごした。


 その間、アマネシアを復活させない為にどうするべきか考え、辿り着いた結論はなんともの味気ない消去法だった。


 ――――人類そのものを滅ぼせば、世界は救える。


 共に真世界ラ・タルに残った神獣の龍王と契約し、『世界の終焉を告げる者人類悪』が現れたら履行を開始する。


世界の終焉を告げる者人類悪』は必ずアマネシアと融合するために動く。


 神獣の龍王はその前に、人類を滅ぼすはずだ。


 仕方ない結論とはいえ、アマネシアの復活を止めるにはそれしかない。

 人類は滅んでも世界は救われるから。


 しかし、状況は混迷を極めていた。


 何の因果か本来の『世界の終焉を告げる者人類悪』がすでに消失していたのに、それでもバハムートは契約の履行をしようとした。

 

 つまり、変わりが現れた、ということなのだろうが、


 あろうことか龍王の眷属は、にことごとく討ち破られてしまった。


 龍王の眷属を鎧袖一触にするとは、


 すでにアマネシアが復活しているに等しい――――


 事の経緯を辿るために、真世界ラ・タルから現世へと繋がる霊脈に乗り、プロディガルシア地下壕へと進入した。

 そこには東国からアマネシアを討伐する為にやってきた武士がおり、遙か東のほうでも『虚無の闇』による浸食によって内乱が拡大しているという。

『虚無の闇』の出現は、アマネシアが復活する予兆だ。

 

 人類の闇、人が人として抱える悪そのもの、それが『虚無の闇』だ。

 

 人柱としてアマネシアを降臨させようとする『世界の終焉を告げる者人類悪』は、途方もない『虚無の闇』を抱える人間。


 おそらく、その者がリーデン岬にいるはずだ。


 そうしてプロディガルシア自警団に付いて行ってみれば、そこには龍王バハムートと対峙する銀色の騎士――――


『半神』がいた。

 

 その半神が、荒れ狂うバハムートを討とうとしているのか――――


 いや、彼の龍王は…………、


 アマネシアと融合していた。


 あり得ないことだった。

 アマネシアは『虚無の闇』を持つ人間にしか降臨出来ない。


 一体、何が起こったか。


 考えている間もなかった。

 アマネシアの圧倒的な力、人類には為す術もなく、ただただ世界が滅ぼされるのを受け入れるしかない摂理。

 無尽蔵の破壊と暴力が撒き散らされ防ぐ手立てもない。

 この世の終わりという光景そのものが目の前で繰り広げられ、その余波があっという間に襲いかかってくるが、


 すべてを半神が防いでいた。


 かつて共に戦った古代種族エテルネルや神獣、その時の最強パーティーである人類が苦戦したアマネシアの攻撃を――――


 あの強大なアマネシアの攻撃を尽く弾いていたのだ。


 信じられない光景である。


 一万年前に我々古代種族エテルネルの大半が犠牲になり滅ぼされたといってもいい戦いを、半神はたった一人で抗っていた。


 埒が明かないとみたアマネシアは、世界そのものを焼き払おうと、巨大な魔力球の生成を開始する。

 

 あれほどのエネルギーを放たれてしまえば、文字通り世界が滅ぶ。

 それを悟った半神は、空間ごと別の時間軸へと転移する魔法の詠唱を始めた。


 おそらく――――


 その転移先が、我々とアマネシアの決戦の場所となるのだろう。


 エンリクスはとうの昔に覚悟が出来ていた。

 青い光が身体を覆う。

 視界も真っ白になり、ようやく周囲の色が見えてきた時には、


 ヒトの姿になったアマネシアがいた。

 禍々しい気配を身に纏い、今にも威圧され潰されそうになるくらいの重圧が身体にのしかかる。


 常人ならば、それだけで逃げ出したくなるほどであろうが、

 正面に佇む『銀色の半神』がその衝動を緩和してくれている。

 半神はまったく動じる気配なく、静かにその場で祈りを捧げた。


 ――――女神アウロラに捧げる、荘厳なる祈り。


 なぜ、その半神がアマネシアと戦うのか、理由は分からない。

 女神アウロラが遣わしたのか、それともまったく別次元の神が遣わしたのか。

 誰一人、その真意を理解する者はいないだろう。


 しかし、分かることはただ一つ。


 彼女、銀色の半神は、我々と協力して『アマネシアバハムート』と戦ってくれるということだ。


 一万年前の決着を、


 残された盟友達と共に、


 今度こそ、果たしてみせる。


 半神の英雄と共に――――

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