第26話 異世界に在りて君は何を想う?


 神懸かり的なチート能力をNPCにも付与されてからあっという間に最終フェーズへと移行した。

 もちろん、その間のギミック処理も完璧で、ラグナロクの中央から外側に向けての断続的前方扇範囲攻撃を避けながらシュロムノヴァ(対象者を中心にダメージフィールド、踏むと即死級の継続ダメージ)をしっかり外周の誰もいないところに捨てる。


 これは、あれだ。


 ハイエンドコンテンツで良く言われる


『エンファンⅡ』のギミックは何度も挑戦して身体で覚えるもので、ハイエンドではその傾向が更に顕著となる。

 当然、ギミック対処においてプレイヤースキル差が顕著に表れ、パーティーはギスギスしていき、攻略もままならず仲良しフレンドパーティーは崩壊していく負のスパイラルを形成していく。


 最終的に出来るプレイヤーはこう思ってしまう。


 俺が後7人いれば(エンファンⅡのパーティーは最大8人編成)。


 みたいな。


 NPC達は正にそれくらの理想的な動きをしてくれており、ネーデルのHPをしっかり削る仕事までこなしているので、こちらにまったくストレスがない。


 新規スキル『神々の友愛』半端ねえっすわ。


 まあ、軽減魔法を何度も切れ目なく展開しなければならないのは変わらないが、ヒーラーの役割もしているから致し方ない。


『神々の友愛』追加効果で超絶火力を発揮したプリシア達のおかげでネーデルが最後のフェーズ開始の『龍王の加護』詠唱を開始し、外周にバハムートの眷属が舞い降りる。

 

 こいつらには直接攻撃できない。

 でもこいつらはいやらしいブレス攻撃をめちゃくちゃしてくるので厄介だった。


 2秒毎に放ってくる氷属性のアイシャルボールは龍族からの攻撃耐性が極端に下がるデバフが付き、更に同じアイシャルボールを受けると即死級のダメージを受ける。

 

 これを解除するには火属性のファイエルボールを受ければいいのだが、これも同じ火属性ファイエルボールを受けると即死級ダメージを受ける。

 

 その間にもサンディルボールを放ってきて、これを受けた者はみんなから離れなければ、数秒で範囲爆発を起こしメンバーにダメージと麻痺のデバフをかけてしまう。


 いわゆるサンディルテロと呼ばれる行為だが、ここまで来たプレイヤーはもう必死すぎてそんな攻撃を確実に見逃してしまうのだ。

 

 多分、誰もがこんな説明されても対処出来ない。

 それほど忙しいのだ。

 このネーデル戦は。


 が、こんな複雑な動きをさせるよりも、今の超絶火力なら殴り続けてもらったほうが手っ取り早い。

 ほぼ枯渇しないMPで軽減魔法重複展開(被ダメ-50%カット、回復分のバリア)でほぼ完封出来るし、麻痺も弱体解除魔法で即対応だ。

 すべて重ね掛け可能だったようで(ゲームの時は無理だった)、なんならこの後の眷属によるカータセットブレス照射も安置に誘導する必要なし。

 

 ――――もっと早くこの仕様変更に気付いていれば楽だった。


 ただこういうのは事前に分かるものでもない。

 一回やってみて確かめるしかないのだが、そういう余裕すらなかった自分。


 ――――まだまだ精進が足りないな。


 最終フェーズでイージーモードに変わったとはいえ、制限時間は13分。

 それを過ぎての『天地瓦解』は回避不能の即死ダメージで強制終了だ。


 残り時間は…………、


 1分を切っていた。


 ネーデルのHPはまだ20%も残っている。

 あと15万ほど削らないと厳しいが。

 ここらでそろそろリミットブレイクを決めて欲しいものだが、

 

 はて、おかしい。


 視界にリミットブレイクゲージが表示されていない。

 これはパーティを組めば使えるようになる最終必殺技みたいなもので、ゲージ3本分溜まれば超大ダメージ技を出せるのに。


 いや、待て。

 そういえばあの新ステータスのNP付与って?

 プリシアとクリスティーヌとエンリクスのステータス欄を見れば…………


 確かにNPゲージ3溜まっている。


 まさか、これは――――


「星よ、陽よ、月よ、真なる形を輝かせ、九天をゆく道行きで、常世の闇を払い給いし、玉と霞に希の久遠へ導きあれ。星霜至る桃源鏡カタストロフィ


 クリスティーヌがNPを消費してプリシアに超絶バフを施しやがった!

 神具性能+50%&クリ威力+100%&OC2増加(NPゲージ5本威力倍撃)


「我が女神アウロラよ、力を貸してくれ、月に請い願う、彼の者に力を、精神に鉄を、そして古代種族エテルネルの悲願を捧げよう。女神の無垢な力アーマスティリーノ


 エンリクスもNPを消費してプリシアを更に強化したぞ!?

 攻撃力+50%&クリ威力+300%&神具のクリティカル率+100%


 こ、これは――――


 文字通りの最終奥義になるのでは!

 ネーデルを削りきれるのでは!?


「閃け爆ぜろ!! 生きることは希望の光! 馬鹿げた悪夢から解放してやるっ!! これが人の想いの力だあああああああ!!!」


 喉がはち切れんばかりに咆哮し、プリシアの右拳に無数の輝く粒子が集まる。

 凄まじいポテンシャルに、思わず目を見張った。


「俺式ファイナルアタック!!!!」


 これは勝つる――――


 完全勝利の必殺エフェクトが炸裂し、視界は一瞬のホワイトアウト。

 

 よし、13分前にネーデル攻略完了だ。

 ちょっと展開は違うけど、多分これで死狂禁断縛鎖アマネシアのエンディングを迎えて感動のフィナーレ、


 の、はずだった。


 ネーデルのHP残量0.1%残っている?


 そのタイミングで強制即死の『天地瓦解』が発動してしまっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る